マンション売却時の「譲渡所得税」完全解説──計算方法・税率・特例控除の全体像と、確定申告で損をしないための実務知識
- 4月8日
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譲渡所得税とは何か──売却益に課される税金の正体
マンションを売却して利益が出れば、その利益に対して税金がかかる。
これが譲渡所得税である。
正確には「所得税」と「住民税」の総称であり、売却によって得た利益(譲渡所得)に対して課税される仕組みだ。
多くの売主が誤解しているのは、売却価格がそのまま課税対象になると思い込んでいる点である。
実際に課税されるのは「売却価格」から「取得費」と「譲渡費用」を差し引いた後の利益部分だけだ。
さらに、一定の条件を満たせば特例控除が適用され、税額がゼロになるケースも珍しくない。
しかし、特例の存在を知らなかったがために数百万円の税金を余計に支払った売主も存在する。
本稿では、譲渡所得税の計算方法から税率、特例控除の全体像、そして確定申告で損をしないための実務知識まで、体系的に解説する。
譲渡所得の計算式──まず「利益」を正しく算出する
譲渡所得の計算式は以下の通りである。
譲渡所得=売却価格-(取得費+譲渡費用)-特別控除額
この計算式を正確に理解することが、税金対策の第一歩となる。
売却価格は、買主から受け取った金額そのものだ。
手付金、中間金、残代金の合計額が売却価格となる。
取得費とは、そのマンションを購入したときにかかった費用の総額である。
購入代金だけでなく、購入時の仲介手数料、登記費用、不動産取得税、印紙税なども含まれる。
ただし、建物部分については減価償却費を差し引く必要がある。
譲渡費用とは、売却のために直接かかった費用だ。
仲介手数料、印紙税、測量費、建物の解体費用などが該当する。
引っ越し費用や売却前のリフォーム費用は原則として含まれない。
取得費の落とし穴──購入時の書類がなければ5%ルールが適用される
取得費の計算で最大の問題となるのが、購入時の書類が見当たらないケースである。
相続したマンションや、20年以上前に購入した物件では、売買契約書や領収書を紛失していることが多い。
この場合、税務上は「概算取得費」として売却価格の5%を取得費とみなすルールが適用される。
5,000万円で売却したマンションの取得費がわからなければ、250万円が取得費となる。
仮に実際の購入価格が3,000万円だったとしても、証明できなければ250万円として計算されてしまう。
この差額2,750万円に対して税金がかかるのだから、書類の有無で税額が数百万円変わることになる。
購入時の契約書がない場合でも、諦めるのは早い。
当時の売主や不動産会社に控えが残っている可能性がある。
登記簿謄本に記載された抵当権の債権額から購入価格を推定できることもある。
住宅ローンの返済予定表や、当時の通帳の履歴も有力な証拠となりうる。
税理士や税務署に相談すれば、合理的な方法で取得費を推計できる場合もある。
減価償却費の計算──建物は経年で価値が目減りする
マンションの取得費を計算する際、建物部分については減価償却費相当額を差し引く必要がある。
土地は時間が経っても価値が減らないが、建物は経年劣化により価値が下がるという考え方に基づく。
減価償却費の計算式は以下の通りである。
減価償却費=建物取得費×0.9×償却率×経過年数
鉄筋コンクリート造のマンションの場合、非事業用の償却率は0.015である。
建物取得費が2,000万円、所有期間が20年の場合、減価償却費は540万円となる。
2,000万円×0.9×0.015×20年=540万円
この540万円を建物取得費から差し引いた金額が、税務上の建物取得費となる。
減価償却費を考慮しなければ、取得費を過大に計上したことになり、後日修正申告を求められる可能性がある。
短期譲渡と長期譲渡──所有期間で税率が倍以上変わる
譲渡所得税の税率は、マンションの所有期間によって大きく異なる。
所有期間が5年以下の場合は「短期譲渡所得」として扱われる。
所有期間が5年を超える場合は「長期譲渡所得」となる。
短期譲渡所得の税率は、所得税30.63%、住民税9%、合計39.63%である。
長期譲渡所得の税率は、所得税15.315%、住民税5%、合計20.315%である。
税率が約2倍も違うのだから、売却時期の判断は慎重に行う必要がある。
ここで注意すべきは、所有期間の計算方法である。
税務上の所有期間は、売却した年の1月1日時点で判定される。
2020年4月に購入したマンションを2025年6月に売却した場合を考える。
実際の所有期間は5年2ヶ月だが、2025年1月1日時点では4年9ヶ月しか経過していない。
したがって、短期譲渡所得として39.63%の税率が適用される。
この物件を2026年1月以降に売却すれば、長期譲渡所得として20.315%の税率となる。
売却時期を数ヶ月ずらすだけで、税額が半減する可能性があるのだ。

3,000万円特別控除──マイホーム売却の最強の節税特例
マイホームを売却した場合、最も重要な特例が「居住用財産の3,000万円特別控除」である。
譲渡所得から最大3,000万円を控除できるため、多くの売主がこの特例により課税ゼロとなる。
適用条件は以下の通りである。
自分が住んでいた家屋を売却すること、または住まなくなった日から3年を経過する年の12月31日までに売却すること。
売主と買主が親子や夫婦など特別な関係にないこと。
前年および前々年に同じ特例の適用を受けていないこと。
この特例は、所有期間の長短に関係なく適用できる点が大きな利点である。
5年以内の短期譲渡でも3,000万円控除を使えば、多くのケースで税金がかからない。
ただし、住宅ローン控除との併用はできない。
売却した年の前年と前々年に住宅ローン控除を受けていた場合、3,000万円控除は使えない。
売却した年の翌年から翌々年までに新居を購入して住宅ローン控除を受ける予定がある場合も同様である。
どちらの特例を選ぶべきかは、売却益の額と新居のローン残高によって異なる。
税理士に相談して、有利な方を選択すべきである。
所有期間10年超の軽減税率──長期保有者への優遇措置
所有期間が10年を超えるマイホームを売却する場合、通常の長期譲渡所得よりもさらに低い税率が適用される。
これが「10年超所有軽減税率の特例」である。
譲渡所得6,000万円以下の部分については、所得税10.21%、住民税4%、合計14.21%となる。
6,000万円を超える部分については、通常の長期譲渡所得税率20.315%が適用される。
この特例は3,000万円特別控除と併用できる点が重要である。
まず3,000万円を控除し、残った譲渡所得に対して軽減税率を適用できる。
例えば、譲渡所得が5,000万円の場合を考える。
3,000万円控除後の課税対象は2,000万円となる。
この2,000万円に14.21%を乗じると、税額は約284万円である。
仮に3,000万円控除がなく、通常の長期譲渡税率が適用されれば、税額は約1,016万円になる。
特例の有無で730万円以上の差が生じるのだ。
買い換え特例──税金の支払いを将来に繰り延べる
マイホームを売却して新たなマイホームを購入する場合、「特定居住用財産の買い換え特例」という選択肢がある。
この特例を使うと、売却時の譲渡所得に対する課税を将来に繰り延べることができる。
非課税になるわけではなく、あくまで繰り延べである点に注意が必要だ。
将来、買い換えた新居を売却する際に、繰り延べた税金がまとめて課税される。
適用条件は厳しい。
売却するマンションの所有期間が10年超、かつ居住期間が10年以上であること。
売却価格が1億円以下であること。
買い換える新居の床面積が50平方メートル以上、土地面積が500平方メートル以下であること。
売却した年の前年から翌年までの3年間に新居を取得し、取得の翌年末までに居住すること。
この特例は3,000万円控除との併用ができない。
売却益が3,000万円を超える場合には買い換え特例が有利になる可能性があるが、慎重な判断が必要である。
譲渡損失の繰越控除──損失が出た場合の救済措置
マンションを売却して損失が出た場合、一定の条件を満たせば、その損失を他の所得と相殺できる。
これを「居住用財産の譲渡損失の損益通算及び繰越控除の特例」という。
給与所得や事業所得から譲渡損失を差し引くことで、所得税と住民税を軽減できる。
損失を控除しきれない場合は、翌年以降3年間にわたって繰り越すことが可能だ。
この特例には「買い換えの場合」と「買い換えない場合」の2種類がある。
買い換えの場合は、新居に住宅ローンがあることが条件となる。
買い換えない場合は、売却するマンションに住宅ローン残高があり、売却価格がローン残高を下回っていることが条件となる。
いわゆる「オーバーローン」状態で売却せざるを得ない場合の救済措置である。
控除できる損失の上限は、住宅ローン残高から売却価格を差し引いた金額となる。
相続したマンションの取得費と所有期間──被相続人から引き継ぐルール
相続で取得したマンションを売却する場合、取得費と所有期間の計算方法が特殊である。
取得費は被相続人(亡くなった方)が購入したときの金額を引き継ぐ。
相続時の時価ではなく、何十年も前の購入価格が基準となる点に注意が必要だ。
所有期間も被相続人の所有期間を通算する。
被相続人が30年間所有していたマンションを相続して1年後に売却した場合、所有期間は31年として計算される。
したがって、長期譲渡所得の税率が適用される。
相続税を支払った場合には「相続税の取得費加算の特例」が使える可能性がある。
相続開始から3年10ヶ月以内に売却すれば、支払った相続税の一部を取得費に加算できる。
これにより譲渡所得が圧縮され、税負担が軽減される。
確定申告の時期と必要書類──手続きを怠れば特例は受けられない
譲渡所得が発生した場合、翌年の2月16日から3月15日までに確定申告を行う必要がある。
特例を適用して税額がゼロになる場合でも、確定申告は必須である。
申告をしなければ特例は適用されず、本来の税額を請求される。
確定申告に必要な主な書類は以下の通りである。
売買契約書(売却時と購入時の両方)。
仲介手数料の領収書。
登記事項証明書(登記簿謄本)。
住民票(売却した年の1月1日時点の住所を証明するため)。
戸籍の附票(居住期間を証明するため、3,000万円控除を適用する場合)。
これらの書類が揃わないと、特例の適用が認められない可能性がある。
売却が決まった時点で、必要書類の収集を始めるべきである。
税理士に依頼すべきケース──自力申告のリスクを見極める
譲渡所得の確定申告は、自分で行うことも可能である。
国税庁の確定申告書作成コーナーを使えば、画面の指示に従って申告書を作成できる。
しかし、以下のケースでは税理士への依頼を強く推奨する。
相続したマンションで、購入時の書類がない場合。
複数の特例の適用可否を判断する必要がある場合。
譲渡損失を繰り越す場合。
海外在住で日本の税制に不慣れな場合。
売却金額が高額で、計算ミスによる追徴税額が大きくなる可能性がある場合。
税理士報酬は一般的に10万円から30万円程度である。
特例の適用ミスや計算ミスで数百万円の追徴課税を受けるリスクを考えれば、保険として妥当な費用といえる。
よくある失敗事例──知識不足が招く税金の払いすぎ
実務の現場では、知識不足による税金の払いすぎが後を絶たない。
最も多いのは、3,000万円控除の存在を知らなかったケースである。
不動産会社の担当者が税務に詳しくなければ、特例の説明がされないこともある。
売主が自ら調べなければ、本来払わなくてよい税金を払ってしまう。
次に多いのは、所有期間の判定ミスである。
1月1日基準という特殊なルールを知らず、実際の所有期間で判断してしまう。
結果として、短期譲渡の税率が適用され、想定の倍近い税金を支払うことになる。
取得費の立証ができず、5%ルールが適用されてしまうケースも散見される。
購入時の契約書を探す努力をせず、安易に5%で計算してしまう。
実際の購入価格が高額であればあるほど、損失は大きくなる。
編集部まとめ
マンション売却時の譲渡所得税は、正しい知識を持っているかどうかで納税額が大きく変わる。
計算の基本は「売却価格-取得費-譲渡費用-特別控除」である。
取得費の立証には購入時の書類が不可欠であり、見つからない場合は5%ルールが適用される。
所有期間5年超で税率は約半分になり、10年超でさらに軽減される。
マイホームの売却であれば、3,000万円特別控除という強力な特例が使える。
ただし、確定申告をしなければ特例は適用されない。
売却益が出た場合も出なかった場合も、翌年3月15日までの申告を忘れてはならない。
判断に迷う場合は、税理士への相談を躊躇すべきではない。
数十万円の報酬で数百万円の損失を防げるなら、それは投資である。
売却は人生で何度もあることではない。
だからこそ、一度きりの機会で損をしないための準備が必要なのだ。
執筆:マンション売却ジャーナル編集部




