マンション売却「住宅ローン残債あり」完全ガイド──残債確認・売却可否判断・アンダーローン/オーバーローン対応・抵当権抹消・買い替えローン活用まで、ローンが残っていても売れる実践的手順を徹底解説
- 6月29日
- 読了時間: 15分
「ローンが残っていても売れますか?」──この問いに、あなたはまだ曖昧な答えしか持っていないのではないか
住宅ローンの返済中に転勤や離婚、住み替えの必要が生じる。
「35年ローンをまだ半分も返していないのに、売却なんてできるのか」。
この不安を抱える売主は、実に多い。
売却に出される不動産の約50%前後が、ローン残付きの状態だと言われている。
つまり、住宅ローンが残っている状態での売却は「例外」ではなく、マンション売却市場における「標準シナリオ」なのだ。
結論から述べる。
住宅ローン返済中でもマンション売却は可能だ。ただし、ローン残債の確認や売却価格とのバランス、住み替えの進め方など、事前に押さえておくべきポイントがある。
本記事では、残債確認から売却可否の判断、アンダーローン・オーバーローンそれぞれの対処法、抵当権抹消、そして買い替えローンの活用まで、ローンが残っていても売れる実践的手順を徹底解説する。
「現状維持バイアス」が売主を縛る──ローン残債の可視化がすべての出発点
心理学に「現状維持バイアス」という概念がある。
人は変化を避け、今の状態を維持しようとする傾向が強い。
住宅ローンが残っている売主の多くは、「完済するまで売れない」と思い込んでいる。
この思い込みこそが、売却の最大の障壁だ。
まず、自分の現在地を把握する必要がある。
住宅ローン残高を確認するには、借入金融機関のウェブサイトをみる、残高証明書を確認する、返済予定表を確認するという3つの方法がある。
返済予定表には、毎月の返済額とその元金と利息の内訳、借入金残高などが記載されている。
住宅ローンの借り換えを行うときには、借り換え先の金融機関から直近の返済予定表(コピー)の提出を求められる。
つまり、売却時にも同様に、残債の正確な把握が不可欠だ。
スーパーで買い物をするとき、財布の中身を確認せずにレジに並ぶ人はいない。
住宅ローン残債も同じだ。
売却という大きな取引の前に、自分の「負債の残高」を正確に把握すること。
これが、すべての判断の出発点となる。
「アンダーローン」か「オーバーローン」か──この判断が売却戦略を決定する
住宅ローン残債と売却価格の関係で、売却戦略は180度変わる。
売却価格が残債を上回る状態を「アンダーローン」、下回る状態を「オーバーローン」と呼ぶ。
オーバーローンとは、不動産を売却しても住宅ローンの残債を完済できない状態を指す。
新築をフルローンで購入した場合、25年以内に売却しようとすると約9割がオーバーローン状態と言われている。
この数字に驚く売主は多い。
しかし、現実として受け止める必要がある。
判断の手順はシンプルだ。
まず、複数の不動産会社に査定を依頼し、売却価格の目安を把握する。
次に、売却価格の95%(諸費用を差し引いた手取り)と、住宅ローン残債を比較する。
売却額の95%が住宅ローン残債を上回っていれば、アンダーローンだ。
もし、売却額の95%が住宅ローン残債を下回っていても、自己資金で補填できる範囲であれば売却はできる。
アンダーローンなら「同時決済」で売却完了──抵当権抹消の仕組みを理解せよ
アンダーローンの場合、売却は比較的スムーズに進む。
売却を成立させるには売却代金で住宅ローンを一括返済し、抵当権を抹消する必要がある。この一連の流れは、金融機関の協力なしには実行できない。
抵当権とは、金融機関がローンの担保として不動産に設定する権利だ。
抵当権は、万が一ローンの返済が滞ったときに金融機関がその不動産を担保として回収(競売)できる権利であり、売却の際には必ず抹消しなければならない。
ここで重要なのは、「同時決済」という仕組みだ。
買主からの売却代金を受け取ると同時に、その代金で住宅ローンを一括返済し、抵当権を抹消する。
売却と完済と抵当権抹消が、同じ日に行われる。
住宅ローン残債がある状態で不動産を売却する場合、銀行への正式な連絡は「売買契約が締結された直後」がベストだ。
契約内容が確定し、決済日が決まった段階で銀行に連絡することで、残債の一括返済額や抵当権抹消に必要な書類の準備をスムーズに進めることができる。
抵当権抹消の実務と費用──想定外の出費を防ぐ
抵当権抹消には、一定の手続きと費用が必要だ。
抵当権抹消費用は、登録免許税が不動産1個につき1,000円だ。マンションは土地と建物で構成されるため、一般的には2,000円が目安となる。
司法書士に依頼する場合は、別途16,000円程度の手数料がかかる。
現役営業マンの証言では、多くの売主が「抵当権抹消は自分でできる」と考えるが、売却時の抵当権抹消は買主・売主・金融機関・司法書士が同時に集まる決済の場で行われるため、実務上は司法書士に依頼するケースがほとんどだ。
2024年4月からは相続登記が、2026年4月からは住所・氏名変更登記がそれぞれ義務化されている。
抵当権の抹消をきっかけに、自身の不動産の登記情報が最新の状態になっているかも確認しておくと安心だ。
住所変更登記が必要な場合、抵当権抹消の前に変更登記を行う必要があり、追加の費用と時間がかかる。
抵当権抹消登記の登録免許税は不動産1件につき1,000円、不動産の事前調査費用は不動産1件につき335円、事後謄本取得費用は不動産1件につき600円だ。
一括返済手数料を見落とすな──金融機関ごとの違いを把握する
住宅ローンの一括返済には、手数料がかかる場合がある。
一括返済はイレギュラーな手続きになるため、事前に銀行側と条件の確認や擦り合わせを実施することがリスクを減らすために必要だ。
金融機関によって手数料体系は大きく異なる。
フラット35の場合はお手数料は無料だ。フラット35以外の商品については50,000円(税別)のお手数料がかかる場合もある。
ネット専用住宅ローンの場合、一部繰上返済は無料、全額繰上返済は変動金利適用期間中は無料、固定金利適用期間中は33,000円(税込)がかかる。
ある大手仲介会社では、「売主が一括返済手数料の存在を知らず、決済日に慌てるケースがある」と指摘している。
事前に金融機関に確認し、諸費用の計算に含めておくことが重要だ。
オーバーローンでも売れる──4つの選択肢を理解する
オーバーローンの場合でも、売却は不可能ではない。
オーバーローンのときの売却方法としては、「貯金等を切り崩して返済する」や「住み替えローンを使う」、「任意売却を選択する」等がある。
選択肢は大きく4つだ。
第一に、自己資金で不足分を補填する方法。
預貯金や親族からの援助で、売却代金と残債の差額を埋める。
第二に、住み替えローン(買い替えローン)を利用する方法。
第三に、売却を先延ばしにして、ローン返済を続けながらアンダーローンになるのを待つ方法。
第四に、任意売却という方法だ。
それぞれの選択肢について、詳しく見ていこう。
選択肢①自己資金補填──50万円以下なら現実的な判断
オーバーローンの金額が小さい場合、自己資金で補填するのが最もシンプルな解決策だ。
自己資金で補填する際の目安は人によって異なるが、50万円以下であれば補填できると判断する人も多いと推測される。
ただし、引っ越し費用や新居の頭金など、売却後に必要となる資金も考慮する必要がある。
自己資金をすべて補填に使い切ってしまうと、新生活の立ち上げに支障が出る。
「損失回避バイアス」という心理傾向がある。
人は利益を得ることよりも、損失を避けることに強く反応する。
オーバーローンの金額を見て、「損をした」と感じる売主は多い。
しかし、住み続けることで発生する機会損失──たとえば、より良い立地への住み替えによる利便性向上、ローン金利上昇リスクからの解放──も考慮すべきだ。
選択肢②住み替えローン(買い替えローン)──新居購入とセットで残債を解消
住み替えを前提とする場合、住み替えローン(買い替えローン)という選択肢がある。
住み替えローンは、現住居の残債と新しい住居の購入費用をまとめて借り入れることができるため、オーバーローン状態でも新しい住まいへの移行が可能だ。
住み替えを希望する場合、現在の住まいの「住宅ローンを完済しているか」がポイントになる。住宅の売却時には、住宅ローンの完済によって抵当権を抹消する必要がある。
手元の資金で一括返済や繰上返済ができず、完済まで年月がかかる場合は、住み替えローンがおすすめの選択肢だ。
ただし、注意点がある。
審査基準が厳しいため、年収や勤続年数などの条件を事前に確認しておくことが重要だ。
住み替えローンでは、銀行は経年で変動する物件や土地の担保価値よりも、主に「人の返済能力」を見て融資を行う。
借りる方の収入や職業、勤務先、勤続年数等が前回の住宅ローンより重視され、条件が良くないと融資を受けることは厳しくなる。
特に「年収」「信用情報」「残っているローンの金額(残債)」「担保評価」の4つは、審査結果に大きく影響する。年収は年収の5〜7倍程度までの借入が目安だ。
住み替えローンのもう一つの重要なポイントは、売却と購入の決済を同日に行う必要があることだ。
旧居の物件は抵当権を外さないと売却できず、抵当権を外すには、旧居を売却して住宅ローンを完済することが必要だ。また、住み替えローンの融資を受けないと、旧居の完済も新居の購入もできない。
このスケジュール調整は、経験豊富な不動産会社のサポートなしには難しい。
選択肢③売却を先延ばしにする──市場環境と金利動向を見極める
売却を急がない場合、住み続けながらローン返済を続け、アンダーローンになるのを待つという選択肢もある。
住宅ローンは元利均等返済が一般的で、返済初期は利息の割合が大きく、元金の減りが遅い。
しかし、返済が進むにつれて元金の減少ペースは加速する。
一方で、建物の資産価値は経年劣化で下がっていく。
従来、「築年数の経過したマンションは資産価値がなくなるので、早めに売るべき」という意見が一般的だったが、価格上昇が続く市場環境では、マンションを所有して残債を減らし、価格が横ばい・下落に転じたタイミングで売るといった選択も考えられる。
住宅ローン残債の金額によっては、金利の値上げが大きな負担になる可能性も十分にある。
2025年後半から金利動向が緩やかに上昇し、変動金利と固定金利の差が縮小している。
2024年3月、日本銀行はマイナス金利政策を解除した。その後も追加利上げが段階的に進み、2025年12月には政策金利が0.75%に引き上げられた。
金利上昇局面では、返済負担が増える可能性がある。
先延ばしの判断は、市場環境と金利動向を慎重に見極める必要がある。
選択肢④任意売却──返済困難な場合の最終手段
住宅ローンの返済が困難になり、自己資金での補填も住み替えローンの利用も難しい場合、任意売却という選択肢がある。
競売を回避する有力な選択肢が「任意売却」だ。これは、オーバーローンであっても債権者の同意を得ることで、競売より有利な条件(市場価格に近い価格)で売却する方法だ。
任意売却は誰でもできるわけではなく、金融機関との高度な交渉が必要だ。不動産売買だけでなく、住宅ローン問題の専門知識を持つ業者に依頼することが成功の秘訣だ。
任意売却のメリットは、競売に比べて市場価格に近い価格で売却できること、引っ越し時期を調整できること、そして近隣に知られにくいことだ。
競売は市場価格と比べて6〜8割程度の価格でしか売れないため、ローンを完済できない可能性が大きい。強制的に追い出される、執行官による自宅の調査でプライバシーが侵害される、ご近所に知られるなどのデメリットがある。
ただし、任意売却で得られたお金はすべてローンの返済に充てられ、売却しても残ったローン残高は、引き続き返済していく必要がある。
任意売却は最終手段であり、返済困難に陥る前の早い段階で、他の選択肢を検討することが重要だ。
売却損が出たときの税制特例──損失を取り戻す仕組み
オーバーローンで売却し、損失が生じた場合でも、税制上の救済措置がある。
売却による損失が出た場合、確定申告で税金特例を活用できる場合がある。一定の要件を満たせば、給与所得や事業所得など他の所得から控除(損益通算)でき、所得税を軽減できる。
この特例には2種類ある。
「居住用財産買換え等の場合の譲渡損失の損益通算及び繰越控除」は、マイホーム売却して損失が発生した際、新たなマイホームをローンで購入した場合に適用できる特例だ。
「特定居住用財産の譲渡損失の損益通算及び繰越控除」は、住宅ローンのあるマイホームを住宅ローンの残高を下回る代金で売却し、譲渡損失が発生した場合に適用できる特例制度だ。新たなマイホームを購入しない場合でも適用できる。
特例を適用した年だけで赤字をすべて損益通算できなかった場合、残額は売却した年の翌年以後最大3年繰り越すことが可能だ。
この特例は2027年12月31日までに売却し買い替える住宅について適用される。
住宅ローン控除との併用適用もできるため、売却と購入のタイミングが同年であれば、一緒に確定申告で特例適用の手続きを行える。
損失が出たからといって、確定申告を怠ると、この救済措置を受けられない。
損をしたときこそ、税理士や税務署に相談し、適切な手続きを行うことが重要だ。
銀行への連絡タイミング──早すぎても遅すぎてもいけない
住宅ローンが残っている状態での売却では、金融機関との連携が不可欠だ。
住宅ローンの残債がある不動産を売却する場合、銀行への連絡タイミングは非常に重要だ。連絡が早すぎても具体的な話が進められず、遅すぎると必要書類の準備や返済段取りに間に合わなくなるリスクがある。
最適なタイミングは、売買契約締結の直後だ。
ただし、以下のケースでは早めの相談が必要だ。
ローンの残債が物件価格を大きく上回っていそうな場合、繰上返済にかかる違約金や手数料の条件が不明な場合、過去に返済の遅延などがありローンの条件が特殊な場合、住み替えローンやつなぎ融資を検討している場合だ。
こうしたケースでは、あらかじめ銀行側と資金計画をすり合わせておくことが、売却時のトラブル回避につながる。
決済日当日の流れ──「同時決済」の実際
売却決済日当日の流れを理解しておこう。
決済は通常、買主が住宅ローンを借り入れる金融機関で行われる。
出席者は、売主・買主・両者の仲介会社担当者・司法書士・売主の住宅ローン金融機関担当者(または書類のみ)だ。
手順は以下の通りだ。
まず、司法書士が登記に必要な書類を確認する。
次に、買主の住宅ローンが実行され、売主の口座に売却代金が振り込まれる。
売主は、その代金で住宅ローンの残債を一括返済する。
金融機関から抵当権抹消に必要な書類が交付される。
司法書士が法務局で所有権移転登記と抵当権抹消登記を申請する。
鍵の引き渡しが行われ、取引完了となる。
この一連の流れが、1〜2時間程度で行われる。
ある大手仲介会社では、「決済日の段取りは、すべての関係者が同じ時間軸で動く必要があり、一人でも遅れると全体が止まる」と強調している。
売主として心がけるべきは、必要書類の事前準備と、当日の時間厳守だ。
よくある失敗パターン──先人の轍を踏まない
住宅ローンが残っている状態での売却で、よくある失敗パターンを紹介する。
第一に、残債を正確に把握せずに売り出し価格を設定してしまうケース。
売却後にオーバーローンが発覚し、資金計画が破綻する。「だいたいこのくらい残っているはず」という感覚で売り出し価格を決めてしまうと、いざ決済を迎えたときに残債を完済できず、急遽自己資金の用意を迫られることになる。売却活動を始める前に、必ず返済予定表または金融機関への照会で正確な残債額を確認しておくべきだ。
第二に、一括返済手数料を見落とすケース。
金融機関ごとに手数料体系が異なることを知らず、決済直前になって数万円単位の出費が発覚する。フラット35のように無料の場合もあれば、固定金利適用期間中は33,000円かかるケースもある。事前に金融機関へ確認し、諸費用の計算に組み込んでおくことが欠かせない。
第三に、銀行への連絡タイミングを誤るケース。
早すぎれば具体的な話が進まず、遅すぎれば必要書類の準備や返済段取りが間に合わなくなる。特に住み替えローンを検討している場合や、過去に返済の遅延があった場合は、通常より早い段階での相談が必要だ。「売買契約締結の直後」という基本タイミングを軸にしつつ、自分の状況が「早めの相談が必要なケース」に該当するかどうかを事前に見極めておきたい。
第四に、住み替えローンの審査を甘く見るケース。
前回の住宅ローン審査と同じ感覚で臨み、年収倍率や信用情報の基準を満たせず融資が下りない事態に陥る。住み替えローンは「人の返済能力」を重視するため、年収・勤続年数・信用情報を事前にシミュレーションしておく必要がある。
第五に、オーバーローンを「恥ずべきこと」と捉え、相談を先延ばしにするケース。
冒頭で述べた通り、新築をフルローンで購入した場合、25年以内の売却では約9割がオーバーローン状態になる。これは特別な失敗ではなく、構造的に起こりやすい状況だ。早期に不動産会社や金融機関に相談すれば、自己資金補填・住み替えローン・任意売却といった選択肢を冷静に比較検討できる。相談を先延ばしにするほど、選択肢は狭まっていく。
編集部まとめ
住宅ローンが残っている状態でのマンション売却は、特別なケースではない。売却に出される不動産の約半数が、ローン残債を抱えた状態で取引されている。
重要なのは、まず自分の残債を正確に把握することだ。アンダーローンかオーバーローンか。この一点が、その後の売却戦略をすべて決定づける。
アンダーローンであれば、同時決済と抵当権抹消という標準的な流れで売却を完了できる。オーバーローンであっても、自己資金補填・住み替えローン・売却の先延ばし・任意売却という4つの選択肢があり、状況に応じて適切な道を選べる。
売却損が出た場合の税制特例、銀行への連絡タイミング、決済日当日の流れ。これらの実務知識を事前に押さえておくことで、想定外のトラブルや出費を防げる。
「ローンが残っているから売れない」という思い込みは、現状維持バイアスにすぎない。正確な情報と正しい手順を踏めば、ローン残債は売却の障壁ではなく、ただの「整理すべき数字」になる。
まずは自分の残債を確認することから始めてほしい。それが、すべての判断の出発点だ。
執筆:マンション売却ジャーナル編集部




