マンション売却「税金」完全ガイド──譲渡所得税・印紙税・登録免許税の計算方法から固定資産税の日割り精算、3000万円特別控除・10年超所有軽減税率の適用判断まで、売却益を最大化するための税務知識を徹底解説
- 7 日前
- 読了時間: 11分
「売却益が出たから確定申告すればいい」──その認識が数百万円の損失を生む
あなたはまだ「税金は売れた後に考えればいい」と思っていないだろうか。
マンション売却において、税金の知識は「後から調べる雑学」ではない。
売却前に税制を理解していれば回避できた損失が、毎年数え切れないほど発生している。
ある大手仲介会社の担当者は「所有期間が5年を超えるまであと3カ月待てば、税率が19%以上も下がったのに」と、売主の早まった判断を悔やむ場面に何度も遭遇したと語る。
税金は売却益を直接削る「見えないコスト」である。
本稿では、マンション売却で発生する税金の全体像を解説し、あなたの手取り額を最大化するための税務知識を伝授する。
「損失回避バイアス」が売主の判断を狂わせる
行動経済学でいう「損失回避バイアス」とは、人間が利益を得る喜びよりも損失を被る苦痛を約2倍強く感じる心理傾向を指す。
この心理が売主に「早く売って確定させたい」「税金のことは後で考えればいい」という短絡的な判断を促す。
しかし、売却の税金は「いつ売るか」「どの特例を使うか」で数百万円単位の差が生じる。
焦りに任せた売却は、最大の損失回避策である「事前の税務設計」を放棄する行為に等しい。
スーパーで値引きシールの有無を確認せずに買い物する人はいないはずだ。
マンション売却の税金特例は、数百万円規模の「値引きシール」である。
譲渡所得税──売却益に課される最大の税金
マンションを売却したときの譲渡所得(売却益)には、給与所得や事業所得とは別立てで計算する「分離課税」が適用される。
譲渡所得税とは、譲渡所得に課される所得税・復興特別所得税・住民税の総称である。
譲渡所得の計算式は「売却価格-取得費-譲渡費用」となる。
取得費とは、購入時の価格に仲介手数料や登記費用を加え、建物については減価償却費を差し引いた金額だ。
譲渡費用には、売却時の仲介手数料や印紙税、建物取壊し費用などが含まれる。
税率は所有期間によって大きく異なり、売却した年の1月1日時点で所有期間が5年以下の場合は「短期譲渡所得(39.63%)」、5年超の場合は「長期譲渡所得(20.315%)」となる。
この差は約19%にも及ぶ。
譲渡所得1,000万円の物件で計算すれば、短期なら約396万円、長期なら約203万円と、193万円もの差額が発生する。
所有期間の「1月1日ルール」を見落とすな
所有期間は「売却した年の1月1日時点」で判定される。
2020年2月1日に取得した不動産の場合、2025年12月31日までに売却すると短期譲渡所得、2026年1月1日以降に売却すると長期譲渡所得となる。
購入日から単純に5年経過しても、1月1日を跨いでいなければ短期扱いになる。
現役営業マンの証言では、この「1月1日ルール」を知らずに年末に焦って売却し、翌月まで待てば税金が半額になったケースが後を絶たないという。
売却を急ぐ前に、まず所有期間を正確に把握することが鉄則だ。
3,000万円特別控除──最も使われる節税特例
3,000万円特別控除とは、譲渡所得から最高3,000万円を控除できる制度である。
正式名称を「居住用財産を譲渡した場合の3,000万円の特別控除の特例」という。
居住用財産の3,000万円の特別控除は、所有期間5年超、5年未満にかかわらず利用可能である。
譲渡所得が3,000万円以下であれば、3,000万円特別控除を使うことで譲渡所得がゼロとなり、税金は発生しない。
都心のタワーマンションでない限り、多くの売主がこの特例で課税をゼロにできる。
3,000万円特別控除の適用要件──6つのチェックポイント
3,000万円特別控除の適用要件は6つある。まず、売却する物件はマイホームであることが前提だ。
現在、主に住んでいる自宅であること。転居済みの場合、転居後3年目の年末までの売却であること。
物件の買主が親族や夫婦、同族会社など、特殊な関係でないこと。
売却した年の前年、前々年に、3,000万円特別控除またはマイホームの譲渡損失が出た場合の損益通算及び損失の繰越控除の特例の適用を受けていないこと。
売却した年、その前年及び前々年に、マイホームの買い換えや交換の特例を受けていないこと。
売却した不動産に関して、固定資産の交換特例、収用等の特別控除などほかの特例の適用を受けていないこと。
これらすべてを満たして初めて適用される。
住宅ローン控除との「二者択一」を忘れるな
買い替えにおいて購入物件で住宅ローン控除を利用する場合には、売却物件で3,000万円特別控除を利用できないというルールがある。
居住用財産の3,000万円控除を受けると、その前後2年間は住宅ローン控除を受けることができない。
住み替えを検討する売主にとって、どちらの特例を使うかは極めて重要な判断となる。
住宅ローン控除は最大13年間、年末残高の0.7%を所得税から控除できる。
一方、3,000万円特別控除は1回限りだが、大きな売却益がある場合は数百万円の節税効果を発揮する。
そのため、どちらを適用すれば有利なのか比較検討する必要がある。
10年超所有軽減税率──3,000万円控除との「ダブル適用」が可能
マイホーム(居住用財産)を売って、一定の要件に当てはまるときは、長期譲渡所得の税額を通常の場合よりも低い税率で計算する軽減税率の特例の適用を受けることができる。
10年超所有軽減税率の特例とは、所有期間が10年を超えるマイホームを売却した際に、譲渡所得税が軽減される制度だ。
3000万円控除特例と併用することができ、譲渡所得が6,000万円以下の部分について譲渡所得税率を14.21%におさえることができる。
通常の長期譲渡所得税率20.315%と比較して、約6%も軽減される。
売った年の1月1日において売った家屋や敷地の所有期間がともに10年を超えていることが要件となる。
居住用財産を譲渡した場合の3,000万円の特別控除の特例と軽減税率の特例は、重ねて受けることができる。
10年超所有軽減税率の具体的な計算例
売却額1億円、取得費3,000万円の場合(3,000万円特別控除適用後)、譲渡所得は7,000万円となる。
譲渡所得税の税率は、6,000万円までの部分と、6,000万円を超えた分で、それぞれで計算する。
6,000万円までの部分の譲渡所得税は6,000万円×14.21%=852.6万円、6,000万円超の部分の譲渡所得税は1,000万円×20.315%=203.15万円となる。
合計約1,056万円の税額となり、特例を使わない場合と比較して大幅な節税が実現できる。
印紙税──売買契約書に貼る「見落としやすい税金」
不動産の譲渡に関する契約書(売買契約書など)のうち、契約金額が10万円を超えるものについては、軽減税率が適用される。
この軽減措置は令和9年(2027年)3月31日までに作成される契約書が対象である。
軽減税率は本則税率のおおむね半額に設定されており、たとえば契約金額1,000万円超5,000万円以下の場合、本則20,000円が軽減後は10,000円となる。
印紙税額は売買価格によって異なり、主な金額帯は以下の通りだ。
500万円超1,000万円以下:5,000円(本則10,000円)
1,000万円超5,000万円以下:10,000円(本則20,000円)
5,000万円超1億円以下:30,000円(本則60,000円)
電子契約は課税文書ではなく印紙税は非課税となるため、印紙税の納付は不要とされている。
登録免許税──抵当権抹消にかかる費用
マンションを売却する際、住宅ローンが残っていれば抵当権抹消登記が必要となる。
抵当権抹消の登録免許税は、不動産1個につき1,000円である。
マンションの場合、建物と土地(敷地権)で2個とカウントされるため、通常2,000円となる。
司法書士に依頼する場合の報酬は1万円〜2万円程度が相場だ。
土地の売買や住宅用家屋の所有権の保存登記等の登録免許税の税率軽減措置は2027年3月31日までとなっている。
売主が負担する登録免許税は抵当権抹消のみであり、買主が負担する所有権移転登記の税率軽減は売主には直接関係ないが、買主の負担が軽くなることで取引がスムーズになる効果はある。
固定資産税の日割り精算──法律上の義務ではないが商慣習
固定資産税とは、土地・家・マンションなどの「固定資産」を所有している人に対して課税される税金である。
毎年1月1日時点で不動産を所有している人に対して、その年度分の固定資産税が課税される。
冒頭でもお伝えしたとおり、不動産売却後の固定資産税は、日割りで精算するのが一般的だ。
課税対象となる年度のうち、引渡し日までを売り主分、引き渡し日以降は買い主分として、それぞれの日数で計算する方法である。
起算日には1月1日と4月1日の2パターンがあり、どちらを選ぶのかによって「引き渡し日以降の日数」が変わる。
関東地方では1月1日、関西地方では4月1日を起算日とするケースが多いが、法律で明確に定めがあるわけではないため、売主と買主の合意のもとで決定しなければならない。
固定資産税精算金の注意点──「売却収入」として扱われる
起算日を基準に日割り計算された金額は、取引に当たって「精算金」と呼ばれるが、実際のところは、売買価格に上乗せされる形で、売り主に支払われる。
不動産の取得・売却の経費である「取得費」や「譲渡費用」には該当しないため、税務上では、売却の利益が増えることになる。
つまり、買主から受け取る固定資産税精算金は、譲渡所得の計算上は「売却価格の一部」として扱われる。
減価償却費の計算──取得費を正確に把握せよ
建物を売却した場合は、建物の購入代金を含む合計額から減価償却費を差し引くことに注意しなければならない。
居住用の家など、事業に使われていなかった建物は「減価償却費相当額 = 建物の取得価格 × 0.9 × 償却率 × 経過年数」で計算する。
マンション(鉄筋コンクリート造)の償却率は0.015である。
例えば、建物価格3,000万円、所有期間15年のマンションの場合、減価償却費は3,000万円×0.9×0.015×15年=607.5万円となる。
取得費が減価償却費の分だけ減るため、譲渡所得が増える結果となる。
購入時の契約書を紛失している場合、売却価格の5%が「概算取得費」として使われるが、実際の取得費より少なくなることがほとんどで、結果的に譲渡所得が増え、税負担が重くなる。
譲渡損失の繰越控除──損した場合こそ確定申告せよ
自宅のマンションを売却して損をした場合、つまり売却損(譲渡損失)が出た場合に使えるのが「譲渡損失の損益通算・繰越控除」である。
これは譲渡損失をその他の所得と相殺して所得税を減らすことができる制度だ。
損失が大きくて1年分の所得から控除しきれない場合は、売却した翌年以後3年間控除を繰り返すことができる。
年収800万円の会社員が2,000万円の譲渡損失を出した場合、3年間にわたって給与所得と相殺でき、数十万円から100万円以上の所得税・住民税の還付を受けられる可能性がある。
売却損が出た場合でも、確定申告をしなければこの特例は適用されない。
確定申告の期限と必要書類
確定申告は、売却した翌年の2月16日から3月15日までの間に確定申告書を提出する。
譲渡所得が発生した場合はもちろん、3,000万円特別控除を適用して税額がゼロになる場合も、確定申告は必須である。
申告しなければ特例は適用されず、後日税務署から「お尋ね」が届くことになる。
必要書類は以下の通りだ。
・確定申告書B(分離課税用)
・譲渡所得の内訳書(土地・建物用)
・売買契約書のコピー(売却時・購入時の両方)
・登記事項証明書(売却したマンションのもの)
・住民票の除票または戸籍の附票(居住の証明)
・仲介手数料等の領収書
2027年以降の税制改正リスクを見据えよ
令和5年度税制改正により、いわゆる「ミニマムタックス」と呼ばれる制度が令和7年から導入されている。令和8年度税制改正においては、さらに課税が強化され、令和9年より追加納税の対象者が広がった。
税負担の観点から考えると、高額な不動産や株式の売却は2026年(令和8年)内に完了させることをおすすめする。
これは主に億単位の売却益がある富裕層向けの改正だが、マンション売却においても、将来の税制改正リスクを意識した売却タイミングの判断は重要だ。
印紙税の軽減措置は2027年3月31日まで、登録免許税の軽減措置も同様に期限がある。
これらの軽減措置が延長されるかは不透明であり、売却を検討しているなら早めの行動が賢明だ。
売主が今日から実行すべき3つのアクション
第一に、購入時の契約書と領収書を今すぐ探し出すこと。
取得費の証明書類がなければ、概算取得費(売却価格の5%)が適用され、譲渡所得が膨らむ。
第二に、所有期間を「売却予定年の1月1日時点」で計算すること。
5年または10年の節目が近いなら、売却時期を調整する価値がある。
第三に、住み替えを検討しているなら「3,000万円特別控除」と「住宅ローン控除」のどちらが有利かを試算すること。
この判断を誤ると、数百万円の損失につながる。
編集部まとめ
マンション売却の税金は、知識の有無で手取り額が数百万円変わる。
譲渡所得税の税率は所有期間5年を境に19%以上、10年を境にさらに6%変わる。
3,000万円特別控除と10年超所有軽減税率は併用可能であり、適用すれば売却益3,000万円以下なら課税ゼロ、それ以上でも大幅な節税が実現する。
印紙税・登録免許税の軽減措置は2027年3月31日まで。
固定資産税の日割り精算金は売却収入として扱われる。
これらの知識を武器に、適切なタイミングで適切な特例を使い、手取り額を最大化する──それが「税金で損しない」売却の第一歩である。
執筆:マンション売却ジャーナル編集部




