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墨田区マンション売却の実態──東京スカイツリー・両国・錦糸町、半蔵門線・総武線・浅草線が交差する下町商業地の資産価値と流動性を読み解く

  • 6月4日
  • 読了時間: 13分

  あなたは「スカイツリー効果」を過大評価していないか


 墨田区でマンション売却を検討している売主の多くは、東京スカイツリー開業以降の再開発効果を過信している。

「スカイツリーができてから街が変わった」「観光客が増えて地価も上がった」という声は、確かに一面の真実を含む。

しかし、現役の仲介営業マンはこう証言する。

「スカイツリー周辺と錦糸町駅前は別物です。押上・業平橋エリアの新築タワーマンションは確かに高値で動きますが、墨田区全体の中古マンション市場を見ると、実需層の購買力には明確な天井がある」

墨田区は東京23区の中でも独特の二面性を持つ。

観光地としての顔と、昔ながらの下町住宅地としての顔。

この二つの顔が、マンション売却における資産価値と流動性に複雑な影響を与えている。

本稿では、墨田区のエリア特性を解剖し、売主が知っておくべき「墨田区マンション売却の現実」を明らかにする。



  墨田区の立地構造──4つの路線帯が形成する資産価値の階層


 墨田区を貫く主要鉄道路線は、半蔵門線・総武線・浅草線・東武スカイツリーラインの4系統である。

この4つの路線帯が、墨田区内のマンション資産価値に明確な階層を作り出している。

最上位に位置するのは、錦糸町駅周辺である。

JR総武線快速・総武線各駅停車・半蔵門線の3路線が集中し、東京駅まで8分、大手町まで10分という都心アクセスを誇る。

錦糸町駅は墨田区唯一の「副都心」として位置づけられ、駅前のオリナスタワーやアルカキットを中心とした商業集積が厚い。

次に位置するのが、押上駅周辺である。

半蔵門線・浅草線・京成押上線・東武スカイツリーラインの4路線が乗り入れ、渋谷・浅草・成田空港方面への多方向アクセスを実現している。

東京スカイツリータウンの開業により、2012年以降は観光・商業の新拠点として急成長を遂げた。

第三の階層は、両国駅・本所吾妻橋駅周辺である。

両国駅は大江戸線の開通により利便性が向上したものの、総武線各駅停車のみの乗り入れであり、快速が停車しないことがボトルネックとなる。

最も苦戦するのが、東向島・鐘ヶ淵・曳舟といった東武スカイツリーライン沿線の各駅停車エリアである。

曳舟駅は半蔵門線直通運転の恩恵を受けるが、東向島・鐘ヶ淵は押上での乗り換えが必須となり、都心アクセスに時間を要する。



  国土交通省地価公示が示す墨田区の価格序列


 2024年の国土交通省地価公示によれば、墨田区の住宅地平均価格は1平方メートルあたり約56万円である。

これは江東区(約62万円)より低く、台東区(約72万円)より大幅に低い水準だ。

墨田区内の地価序列を見ると、最高値は錦糸町駅至近の商業地で1平方メートルあたり200万円を超える。

一方、東向島や八広といった区北部の住宅地は30万円台にとどまる。

同じ墨田区でありながら、地価に6倍以上の開きが存在するのだ。

この価格差は、そのままマンション坪単価の差として反映される。

錦糸町駅徒歩5分圏内の築10年マンションであれば、坪単価350万円〜400万円が相場となる。

押上駅周辺も同様に300万円〜380万円の水準を維持している。

対して、東向島や鐘ヶ淵の築10年マンションは、坪単価200万円〜250万円が上限となる。

売主が認識すべきは、「墨田区」という括りでの相場把握が無意味だという事実である。


図1|墨田区内主要駅別マンション坪単価の分布(2024年REINS成約データより編集部作成)


  東京カンテイデータが示す墨田区マンションの流動性


 東京カンテイが公表するマンションPBR(Price to Book-value Ratio)を見ると、墨田区の中古マンション流動性の実態が浮かび上がる。

2024年時点で、墨田区全体の中古マンション平均PBRは約1.08である。

これは、新築時の分譲価格を8%上回る水準で中古が流通していることを意味する。

城東エリアの中では江東区(1.12)に次ぐ高水準であり、台東区(1.05)・荒川区(0.98)を上回る。

しかし、この数値には大きな落とし穴がある。

墨田区のPBRを押し上げているのは、2015年以降に分譲された錦糸町・押上周辺の新築タワーマンションである。

築20年以上の既存マンションに限定すると、PBRは0.85〜0.95程度まで下落する。

つまり、築古マンションは新築時価格を割り込んで流通しているのが実態だ。

レインズ登録データから墨田区中古マンションの平均成約日数を算出すると、約68日である。

これは23区平均の約72日より若干短いが、港区(45日)・渋谷区(48日)といった都心部には遠く及ばない。

墨田区マンションの流動性は「中の上」程度と認識すべきである。



  錦糸町エリア──副都心としての底力と再開発余地


 錦糸町は墨田区における資産価値の頂点である。

JR総武線快速の停車駅であり、東京駅・品川駅・千葉駅への直通アクセスが可能。

半蔵門線も渋谷まで20分という立地は、共働き世帯にとって魅力的だ。

錦糸町駅前には丸井錦糸町店、アルカキット、オリナスタワーが立地し、日常の買い物から映画・スポーツクラブまで完結する。

飲食店の集積も厚く、北口・南口ともに深夜まで賑わいを見せる。

この商業集積の厚さが、錦糸町マンションの資産価値を支えている。

ある大手仲介会社の営業マンはこう語る。

「錦糸町は城東エリアで唯一、都心3区からの住み替え需要を取り込める駅です。港区・渋谷区から予算を下げて広さを求める層が、最初に候補に挙げるのが錦糸町なんです」

この「都心3区からの住み替え需要」が、錦糸町マンションの価格下支え効果として機能している。

錦糸町駅徒歩5分圏内のマンションであれば、築15年でも坪単価300万円を割ることは稀である。

課題は駅から離れた立地の急速な価値低下である。

徒歩10分を超えると坪単価は2割以上下落し、徒歩15分超では3割以上の下落となる。

錦糸町の資産価値は、駅徒歩7分を境界線として明確に二分されるのだ。



  押上・業平橋エリア──スカイツリー効果の光と影


 2012年の東京スカイツリー開業は、押上・業平橋エリアの不動産市場を一変させた。

開業前は下町の古い住宅街に過ぎなかったこのエリアが、年間3000万人が訪れる観光拠点へと変貌したのである。

東京スカイツリータウン内のソラマチには300を超える店舗が入居し、すみだ水族館も集客装置として機能している。

この商業集積により、押上駅周辺の生活利便性は劇的に向上した。

しかし、売主が認識すべき「影」の部分も存在する。

スカイツリー周辺のタワーマンションは、観光地立地ゆえの特殊な問題を抱えている。

週末・祝日の混雑による生活動線の阻害。

外国人観光客の増加に伴う騒音問題。

そして、観光需要の変動リスクである。

コロナ禍でスカイツリーの来場者数が激減した際、周辺マンションの成約価格も5%〜8%程度の下落を経験している。

観光地立地のマンションは、観光産業の浮沈と連動するリスクを内包しているのだ。

ある中堅仲介会社の営業マンはこう分析する。

「押上のタワーマンションを購入する層は、スカイツリービューを求める投資家と、鉄道アクセスを重視する実需層に二分されます。投資家層は市況変動で売り急ぐ傾向があり、相場のボラティリティを高める要因になっています」



  両国エリア──相撲と歴史が形成する独自のブランド価値


 両国は墨田区の中でも独自のポジションを占めるエリアである。

国技館、江戸東京博物館(現在休館中)、相撲部屋の集積が、「日本の伝統文化の中心地」としてのブランドを形成している。

このブランド価値は、特定の購入層に強く訴求する。

外国人駐在員、伝統文化に関心を持つ知識層、そして引退後の都心回帰を志向するシニア層である。

両国駅は総武線各駅停車と大江戸線の2路線が利用可能だが、快速が停車しない点がウィークポイントとなる。

東京駅まで総武線各駅停車で約8分だが、快速利用の錦糸町乗り換えが必要な場合もある。

両国エリアの中古マンション相場は、錦糸町と押上の中間に位置する。

駅徒歩5分圏内の築10年マンションで坪単価280万円〜320万円が目安となる。

特筆すべきは、両国エリアの購入検討者の決断の遅さである。

ある大手仲介会社のデータによれば、両国エリアの内覧から契約までの平均日数は32日。

錦糸町の22日、押上の25日と比較して明らかに長い。

これは、両国を選ぶ購入者が「衝動買い」ではなく「熟慮型」である証左といえる。

売主は、両国エリアでの売却には忍耐が必要だと認識すべきである。



  曳舟・東向島・鐘ヶ淵エリア──下町住宅地の現実


 墨田区北部の曳舟・東向島・鐘ヶ淵エリアは、錦糸町・押上とは異なる市場力学で動いている。

曳舟駅は東武スカイツリーラインと京成押上線の乗換駅であり、半蔵門線への直通運転の恩恵を受ける。

曳舟駅周辺は近年の再開発でマンション供給が増加し、若年ファミリー層の流入が見られる。

しかし、東向島・鐘ヶ淵は各駅停車しか停まらず、都心アクセスに30分以上を要する。

この「時間距離」が、エリアの資産価値に決定的な影響を与えている。

行動経済学でいう「アンカリング効果」は、不動産購入でも強く作用する。

購入検討者は最初に見た物件の価格を基準(アンカー)として、その後の判断を行う。

錦糸町や押上で内覧を始めた購入検討者が、予算調整のために東向島まで範囲を広げた場合、「錦糸町より2割安い」というアンカーが働く。

この結果、東向島・鐘ヶ淵のマンションは常に「割安感」を求められる宿命を負う。

東向島駅徒歩5分の築10年マンションで、坪単価200万円〜230万円が相場の上限となる。

錦糸町の6割程度の水準であり、この格差は今後も縮まる見込みが薄い。



  墨田区マンション売却における「両手仲介」の構造


 墨田区の中古マンション市場では、仲介会社の「両手仲介」志向が顕著に表れる。

両手仲介とは、売主と買主の双方から仲介手数料を受け取る取引形態である。

仲介会社にとっては、片手仲介の2倍の収益となるため、両手取引を優先する経済的動機が働く。

墨田区の中古マンション市場では、両手仲介比率が高い傾向にある。

その理由は、エリア内での物件検索の完結性にある。

錦糸町で探し始めた購入検討者が、予算の関係で押上、さらに曳舟へと範囲を広げるパターンが多い。

この「同一区内での検索範囲拡大」が、同じ仲介会社が売主側・買主側の双方を担当する確率を高めるのだ。

売主が警戒すべきは、この両手志向が「囲い込み」につながるリスクである。

囲い込みとは、他社からの購入希望者を意図的に排除し、自社の買主を優先する行為を指す。

墨田区で売却を依頼する際は、媒介契約締結時に「レインズ登録の即日実施」と「他社からの内覧申込への対応方針」を明確に確認すべきである。



  墨田区特有の「隅田川ビュー」プレミアム


 墨田区マンションの資産価値を語る上で、隅田川ビューの存在は外せない。

隅田川沿いに立地し、リビングから川と東京スカイツリーを望むマンションには、明確なプレミアムが発生する。

このプレミアムは、同一棟内でも住戸ごとに大きく異なる。

ある大手仲介会社の分析によれば、隅田川ビューが得られる住戸と、ビューが得られない住戸では、坪単価に15%〜25%の差が生じるという。

しかし、このビュープレミアムには「希少性の罠」が潜んでいる。

心理学でいう「損失回避バイアス」は、人間が利益を得ることよりも損失を避けることを強く志向する傾向を指す。

隅田川ビューのマンションを売却する売主は、このビュープレミアムを「既得権」として過大に評価しがちである。

「この眺望は他では得られない」という認識が、相場を逸脱した売り出し価格の設定につながる。

現実には、ビュープレミアムを払える購入者層は限定的である。

ビュープレミアムを過大評価した売り出し価格は、長期滞留と価格改定の繰り返しを招く。

売主は、ビュープレミアムを「加点要素」として認識しつつも、基準となる相場価格から乖離しすぎない価格設定を心がけるべきである。



  ハザードリスクと資産価値──荒川氾濫シミュレーションの影響


 墨田区は、東京都が公表する荒川氾濫時の浸水想定区域に広範囲が含まれる。

国土交通省のハザードマップによれば、墨田区の大部分が最大浸水深3メートル以上の想定区域に指定されている。

このハザードリスクは、墨田区マンションの資産価値にどう影響するか。

結論からいえば、現時点での影響は限定的である。

理由は二つある。

第一に、荒川氾濫は「発生確率が極めて低い大規模災害」であり、購入検討者の多くが日常的なリスクとして認識していない。

第二に、城東エリア全体が同様のハザードリスクを抱えているため、墨田区だけが不利になるわけではない。

しかし、売主が認識すべき潜在リスクは存在する。

近年の気候変動に伴う水害頻発により、購入検討者のハザードリスクへの関心は確実に高まっている。

住宅ローンを提供する金融機関の中には、ハザードリスクの高いエリアの物件に対して、融資審査を厳格化する動きも出始めている。

現時点では顕在化していないが、5年後・10年後にはハザードリスクが資産価値に織り込まれる可能性を排除できない。



  墨田区マンション売却の最適タイミング


 墨田区マンションの売却タイミングを考える上で、重要な指標がある。

東京スカイツリータウンの来場者数と、墨田区中古マンション成約件数には正の相関が見られる。

観光シーズンのピークである春休み・ゴールデンウィーク・夏休み期間は、押上周辺エリアへの注目度が高まり、内覧予約も増加する傾向にある。

しかし、より重要なのは「築年数の節目」である。

住宅ローン控除の適用条件、瑕疵保険の加入可否、購入検討者の心理的ハードルを考慮すると、築20年・築25年が重要な分水嶺となる。

築19年と築21年では、成約価格に5%〜10%の差が生じるケースが珍しくない。

売主は、自身のマンションの築年数が「節目」に近づいているかを常に意識すべきである。

築19年のマンションを所有している場合、「築20年になる前に売り切る」という時間軸での戦略が有効だ。



  仲介会社選びで墨田区売主が確認すべき3つの質問


 墨田区でマンション売却を依頼する際、仲介会社に対して必ず確認すべき質問がある。

第一の質問は、「墨田区での直近1年間の成約実績は何件ですか」である。

墨田区の中古マンション市場は年間約1,200件の成約がある。

この中でどれだけのシェアを持つかが、仲介会社のエリア精通度を測る指標となる。

第二の質問は、「錦糸町と東向島で、それぞれどの程度の成約実績がありますか」である。

前述のとおり、墨田区内でも錦糸町と東向島では市場特性が大きく異なる。

自身の物件所在地に近いエリアでの実績を確認することが重要だ。

第三の質問は、「レインズ登録は媒介契約締結から何日以内に行いますか」である。

専任媒介契約であれば法定上限は7日だが、「翌営業日」と即答できる会社を選ぶべきである。

この3つの質問に対する回答の明確さと具体性が、その仲介会社の信頼度を測るバロメーターとなる。



編集部まとめ


墨田区のマンション売却は、「スカイツリー効果」という表層的なイメージに惑わされてはならない。

錦糸町の副都心としての底力、押上の観光地リスク、両国の独自ブランド、そして東向島・鐘ヶ淵の下町住宅地としての限界。

これらのエリア特性を正確に理解し、自身のマンションの市場ポジションを把握することが、売却成功の第一歩である。

墨田区は「割安な城東エリア」から「観光地×生活利便性を兼ね備えたエリア」へと変貌しつつある。

しかし、その変貌の恩恵を受けているのは、錦糸町・押上という限定的なエリアに過ぎない。

売主は、自身のマンションが「どの墨田区」に属するかを冷静に見極め、その市場特性に応じた売却戦略を立てるべきである。

仲介会社の両手志向を警戒し、レインズ登録の徹底を確認し、エリア精通度を見極める。

これが、墨田区マンション売却で損をしないための鉄則である。


執筆:マンション売却ジャーナル編集部


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