マンション売却「住宅ローン残債」完全ガイド──アンダーローン・オーバーローンの見極め方・抵当権抹消の手続き・住み替えローン・任意売却の選択肢から、残債ありでも売却を成功させるための実践的フレームワーク
- 7月29日
- 読了時間: 12分
あなたはまだ「ローンが残っていたら売れない」と思い込んでいないか
住宅ローンの残債があるマンションは売却できない──。この誤解が、どれほど多くの売主を行動不能に陥れてきたことか。
結論を言う。住宅ローン返済中でもマンション売却は可能だ。
売却に出される不動産の約50%前後が、ローン残付きの状態だと言われている。あなたは決して例外ではない。
問題は「売れるか売れないか」ではない。「どう売るか」を知っているか否かだ。
本記事では、住宅ローン残債を抱えたマンション売却の全体像を、業界の内側から徹底解説する。
「売れない」という思い込みが損失を生む──保有効果と損失回避バイアス
人間の脳は、手放すことを極端に恐れる。行動経済学で「損失回避バイアス」と呼ばれる心理だ。
ローン残債がある状態で売却を検討する人は、「今売ったら損をするのではないか」という恐怖にとらわれる。
しかし現実は逆だ。2026年の金利上昇により、毎月の返済額が増大し、教育資金を切り崩して返済を続ける「自転車操業」の状態に陥る世帯が増加している。
売却を先延ばしにするほど、金利負担は増し、物件価値は下がり、損失は膨らむ。
「保有効果」も厄介だ。人は自分が所有するものを過大評価する傾向がある。だからこそ、数字で冷静に判断する技術が必要になる。
まず確認せよ──あなたのローン残高を把握する4つの方法
売却戦略を立てる第一歩は、正確なローン残高の把握だ。
住宅ローンの残高は、毎年金融機関から送付される「残高証明書」で確認できる。
残高証明書は、おおよそ10月下旬ごろには発送されるのが一般的だ。
返済予定表でも確認できる。返済予定表には、元金や利息などの内訳も記載されている。
金融機関のインターネットサービス・インターネットバンキングに登録している場合は、WEB上で簡単に住宅ローン残高を確認できる。
対応していない金融機関もあるため、事前確認が必要だ。
金融機関の窓口や電話でも、住宅ローン残高が確認できる。
営業時間内に、住宅ローンを借りた支店で確認するようにしよう。
アンダーローンとオーバーローン──運命を分ける境界線
ローン残高を把握したら、次は売却想定価格との比較だ。この結果が、あなたの売却戦略を決定づける。
アンダーローンのマンションであれば、引渡時に残債を一括返済することで普通に売ることが可能だ。
アンダーローンとは、売却価格がローン残高を上回る状態を指す。売却代金でローンを完済し、手元に現金が残ることもある。
オーバーローンでは売却しても借金が残る点が大きな違いだ。
オーバーローンとは、ローン残高が売却価格を上回る状態。この場合、単純な売却では抵当権を抹消できない。
ある大手仲介会社の営業マンはこう語る。「査定段階でオーバーローンが判明した瞬間、売主の表情が曇る。だが諦める必要はない。対処法は複数存在する」。
なぜ抵当権を抹消しないと売れないのか──銀行の「担保」という仕組み
スーパーで買い物をするとき、レジを通さずに店を出ることはできない。抵当権も同じだ。
抵当権は、住宅ローンなどで不動産を購入した際に設定される権利だ。住宅ローンの返済が滞った場合、金融機関がその不動産を競売にかけて債権を回収できる。
不動産の売買契約上、住宅ローンの完済だけでなく、抵当権抹消登記の手続きを行うことが条件となるため、抵当権抹消登記をしないと不動産を第三者に譲渡できない。
抵当権が設定されている不動産を売却する場合は、売却で得られたお金や自己資金を充てて残った住宅ローンを完済することが多いため、売買代金の決済当日に抵当権抹消登記の手続きも行うのが一般的だ。
つまり、買主に物件を引き渡す瞬間には、ローン完済と抵当権抹消が同時に完了していなければならない。
抵当権抹消にかかる費用──知らないと損をする数字
抵当権抹消費用は、不動産1個につき1,000円だ。
マンションは土地1つ、建物1つで構成されていることが一般的なので、マンションの場合は2,000円となることが多い。
司法書士に依頼した場合は、別途1.5万円ほど司法書士手数料が必要だ。
不動産の事前調査費用は不動産1件につき335円、事後謄本取得費用は不動産1件につき600円(オンライン請求の場合480~500円)がかかる。
内訳は、基本の登録免許税(2,000円)、登記事項証明書の取得費用(1,200円程度)、司法書士への依頼費用(1.5万円前後)などとなる。
売買では、売主は所有権移転費用については支払う必要はなく、抵当権抹消費用だけ負担すればいい。
手続きは自分でも可能だが、不動産売却時は所有権移転登記なども伴うため、司法書士へ依頼するケースが一般的だ。
オーバーローンでも売れる──4つの突破口
オーバーローンだからといって、売却を諦める必要はない。オーバーローンのときの売却方法としては、「貯金等を切り崩して返済する」や「住み替えローンを使う」、「任意売却を選択する」等がある。
それぞれの選択肢を詳しく見ていく。
突破口①:自己資金で差額を埋める
最もシンプルな対処法は、ローン残債と売却代金の差額を自己資金でまかなう方法だ。預貯金から現金を用意したり、一時的に親族に借りたりするなどして差額を補えば、問題なく売却ができる。
この方法が適しているのは、ローン残債と売却価格の差額が少ない場合だ。
差額が100万円程度であれば、貯蓄からの捻出も現実的だ。500万円を超えるようなら、他の選択肢を検討すべきだろう。
突破口②:住み替えローンを活用する
住み替えローンとは、自宅を売却してもローンを完済できない場合に、残債と新しい家の購入資金をまとめて借りられるローンのことだ。
住み替えローンを利用すれば、オーバーローンの状態でも売却と住み替えを同時に進められる場合がある。
住み替えローンを利用して、現在の住宅ローンの残債分もあわせて借り入れることで、抵当権が抹消でき、残債がある状態での住み替えが可能になるという仕組みだ。
ただし注意点がある。住み替えローンの審査が厳しいとされる大きな理由は、借入額がどうしても大きくなってしまうことが挙げられる。
ローンの利用者は、新居を購入するのにかかる費用と前の住宅のローン残債、両方のお金を1つのローンで借りなければならない。
現役営業マンの証言では、「住み替えローンの審査に通るのは、年収が安定していて、返済負担率に余裕がある人に限られる。審査落ちの相談は少なくない」という。
住み替えローンの審査を通りやすくするための方法として、夫婦で住み替えローンを申し込む、不動産会社に金融機関を紹介してもらう、転職直後に申し込まないなどがある。
突破口③:任意売却という選択
任意売却とは、住宅ローン等の借入金が返済できなくなった場合、売却後も住宅ローンが残ってしまう不動産を金融機関の合意を得て売却する方法だ。
通常、不動産を売却するには住宅ローンを完済し、抵当権を抹消する必要がある。しかし、ローン残高より売却価格が低い場合は完済できない。そのようなケースで利用されるのが任意売却だ。
任意売却は金融機関が了承すれば売却が可能になる。
任意売却は、金融機関(債権者)の同意を得たうえで、市場価格に近い価格で不動産を売却し、売却代金をローン返済に充てる方法だ。競売と異なり、高値で売却できる可能性が高く、生活への影響も少ないのがメリットだ。
住宅ローンの滞納から開札日までは13~16ヶ月が目安だ。滞納から1年と少し程度なら、まだ任意売却に間に合う可能性が残されている。
重要なのはタイミングだ。準備期間が必要なため、なるべく早く任意売却に向けた相談をすべきだ。
突破口④:売却を延期してローン残高を減らす
住宅ローンが完済できる高めの額で売り出してみる方法や、売却を延期する方法もある。
ローン残高は毎月の返済により減少していく。一方で物件価値が維持または上昇するエリアであれば、時間が解決する場合もある。
ただし、金利上昇局面では返済負担が増す。物件価値が下落傾向にあるエリアでは、延期がさらなる損失を生む可能性もある。
万一ローン返済に行き詰まる場合は、できるだけ早い段階で金融機関や専門家に相談し解決への道を探ることが重要だ。
一括返済の落とし穴──銀行への連絡タイミング
一括返済はイレギュラーな手続きになるため、事前に銀行側と条件の確認や擦り合わせを実施することがリスクを減らすために必要だ。
一括返済では一般的に手数料(一括返済手数料)が発生するが、ローン契約から一括返済までの時間が短い場合、手数料とは別に違約金のような形で費用が発生することがある。
現役営業マンの証言では、「売却活動を始める前に、必ず銀行に連絡を入れるべきだ。残債証明書の発行には1~2週間かかることもある」という。
決済日当日に慌てないためにも、売却活動開始時点で金融機関への一報を入れておくことを強く推奨する。
売却損が出たときの救済策──譲渡損失の損益通算
オーバーローン状態で売却すると、多くの場合「売却損」が発生する。だが税制上の救済措置がある。
令和7年12月31日までに住宅ローンのあるマイホームを住宅ローンの残高を下回る価額で売却して損失(譲渡損失)が生じたときは、一定の要件を満たすものに限り、その譲渡損失をその年の給与所得や事業所得など他の所得から控除(損益通算)することができる。
さらに損益通算を行っても控除しきれなかった譲渡損失は、譲渡の年の翌年以後3年間繰り越して控除(繰越控除)することができる。
住宅ローンの残高より低い価額で売却した場合の譲渡損失が対象となり、確定申告をすることで他の所得から控除できる。
これらの特例は、新たなマイホーム(買換資産)を取得しない場合であっても適用することができる。
売却損が出たときに使う「居住用財産の買換えに係る譲渡損失の損益通算及び繰越控除の特例」は、住宅ローン控除と併用することが可能だ。
つまり、住み替えで新居を購入した場合、譲渡損失による所得税還付と、新居の住宅ローン控除の両方を受けられる可能性がある。
損益通算の計算例──数字で理解する節税効果
具体例で見てみよう。
2,000万円(売却代金)-6,000万円(購入代金)=△4,000万円(譲渡損失の金額は4,000万円)。3,000万円(借入金残高)-2,000万円(売却代金)=1,000万円(←損益通算限度額)。4,000万円>1,000万円で、譲渡損失額のうち限度額まで、1,000万円が損益通算できる金額となる。
給与所得(400万円)より大きな譲渡損失(1,000万円)があるので、その年の所得は0円になり、源泉徴収された所得税は全額還付される。
売却損を出しても、税金面で取り戻せる部分がある。この制度を知らずに確定申告をしない売主は、取り戻せるはずの税金を放棄していることになる。
売却活動前にやるべき5つのチェックリスト
住宅ローン残債がある状態でマンション売却を成功させるために、以下の5項目を必ず確認せよ。
第一に、正確なローン残高の把握だ。残高証明書または金融機関への問い合わせで確認する。
第二に、複数社からの査定取得だ。最低3社以上から査定を取り、売却想定価格の幅を把握する。
第三に、アンダーローンかオーバーローンかの判定だ。ローン残高と売却想定価格を比較する。
第四に、一括返済手数料の確認だ。金融機関に連絡し、一括返済時の手数料と必要書類を確認する。
第五に、使える税制特例の確認だ。譲渡損失が出る場合、損益通算の適用可否を確認する。
金融機関への連絡で確認すべき3つの質問
金融機関に連絡する際は、以下の3点を必ず確認する。
「現時点の正確なローン残高はいくらか」。これが売却戦略の出発点だ。
「一括返済時の手数料はいくらか」。ローン契約から一括返済までの時間が短い場合、手数料とは別に違約金のような形で費用が発生することがある。
「残債証明書の発行に何日かかるか」。決済日から逆算してスケジュールを組む必要がある。
「売り時」を逃さないための判断軸
住宅ローンの残債額が大きい場合、金利が上昇すると一括返済で支払う金額が大きく変わる。
変動金利でローンを組んでいる場合、金利上昇局面での売却判断は特に重要だ。
金利上昇による住宅ローン返済の不安を解消するには、競売を避ける「任意売却」と家計再生のプロセスを検討すべきだ。
「まだ大丈夫」と思っているうちに、選択肢は狭まっていく。返済に少しでも不安を感じたら、早めに専門家に相談することが鉄則だ。
住み替えローン審査を通すためのポイント
住み替えローンを利用する場合、借入金を返済している必要がある。
住み替えローンを申請すると過去の借入金をチェックされる。家はもちろんのこと車などローンで購入したものやクレジットカードの利用状況も対象だ。履歴だけでなく返済はちゃんと行われているかなど、返済状況も対象の1つだ。
現役営業マンの証言では、「クレジットカードの支払い遅延が1回でもあると、審査に響く。住み替えを考え始めたら、まず信用情報をクリーンに保つことから始めるべきだ」という。
不動産会社に金融機関を紹介してもらう方法も有効だ。仲介会社は金融機関との取引実績があり、審査が通りやすい銀行を知っている。
任意売却を選ぶ前に知っておくべきこと
任意売却には信用情報への影響がある。この点を正しく理解した上で判断すべきだ。
任意売却に向けて引越しを行い、住民票を移した、あるいは実際に住まなくなった年からは、住宅ローン控除の対象外となる。
任意売却はいつでもできるわけではない。金融機関との交渉には時間がかかるため、返済が苦しくなった段階で早めに動くことが重要だ。
返済が滞る前に、代位弁済から売却、転居までのタイムラインを明確にし、生活再建を優先したスケジュールを立案することが求められる。
「知っていれば」と後悔しないために
住宅ローン残債が残っているマンションを売却した場合、利益が発生したら確定申告が必要となる。売却による損失が出た場合は課税対象とならないため、確定申告や納税は不要だ。
ただし、売却による損失が出た場合でも、確定申告で税金特例を活用できる場合がある。
一定の要件を満たせば、給与所得や事業所得など他の所得から控除(損益通算)でき、所得税を軽減できる。
損失が出ても確定申告をしない人が多い。だが、それは本来還付されるはずの税金を自ら放棄する行為に等しい。
編集部まとめ
住宅ローン残債があるマンションは、正しい知識と戦略があれば売却できる。
まずローン残高を正確に把握し、査定価格と比較する。アンダーローンなら通常売却、オーバーローンなら自己資金投入・住み替えローン・任意売却のいずれかを選択する。
売却損が出た場合は、譲渡損失の損益通算特例を使って所得税を取り戻せ。この制度は2027年12月31日までの売却が対象だ。
「ローンが残っているから売れない」という思い込みが、あなたの行動を止めている。数字を把握し、選択肢を知り、専門家に相談する。これが住宅ローン残債を抱えた売却を成功させる第一歩だ。
執筆:マンション売却ジャーナル編集部




