マンション売却「税金」完全ガイド──譲渡所得税・印紙税・登録免許税の計算方法と、3000万円特別控除・軽減税率・買換え特例を活用して税負担を最小化するための実践的フレームワーク
- 8月10日
- 読了時間: 10分
あなたはまだ「マンションを売っても税金は大したことない」と思っていないか
マンション売却で利益が出たとき、最大で売却益の約40%が税金として消える。
これは脅しではない。
所有期間5年以下なら39.63%、5年超でも20.315%が課税される──これが譲渡所得税の現実だ。
しかし、多くの売主がこの事実を正しく理解しないまま売却を進め、手取り額が想定より数百万円少なくなるケースが後を絶たない。
行動経済学で「損失回避バイアス」と呼ばれる心理がある。
人は得をすることより損をすることに2倍以上の痛みを感じるという法則だ。
税金を「後から払うもの」として軽視する売主は、この痛みを売却後に一気に受ける。
逆に、税制を正しく理解し、控除や特例を最大限活用する売主は、同じ売却価格でも数百万円多く手元に残す。
本記事では、マンション売却にかかる3つの税金──譲渡所得税・印紙税・登録免許税の計算方法を解説し、3000万円特別控除・軽減税率・買換え特例を活用した税負担最小化の実践的フレームワークを提示する。
マンション売却でかかる3つの税金──全体像を把握せよ
マンション売却で主にかかる税金は、売却益に対する譲渡所得税、売買契約書の印紙税、抵当権抹消時の登録免許税の3つだ。
この3つの税金は、それぞれ発生タイミングも納付方法も異なる。
譲渡所得税は売却翌年の確定申告で納付する。
印紙税は契約書作成時に収入印紙を貼付して納める。
登録免許税は抵当権抹消の登記申請時に納付する。
スーパーで買い物をするとき、レジで支払う金額だけでなく、ポイントカードの還元や割引クーポンも計算に入れるだろう。
マンション売却も同じだ。売却価格だけを見ていては、本当の「手取り額」は見えない。
譲渡所得税──売却益に課される最大の税金
税率は所有期間によって大きく異なり、売却した年の1月1日時点で所有期間が5年以下の場合は「短期譲渡所得(39.63%)」、5年超の場合は「長期譲渡所得(20.315%)」となる。
ここで多くの売主が間違えるのが「所有期間の数え方」だ。
例えば、2020年4月に購入したマンションを2026年6月に売却するケースを考えてみよう。実際の所有期間は6年2ヶ月だが、2026年1月1日時点では所有期間は5年8ヶ月となり、「5年を超える」ため長期譲渡所得に該当する。
逆に、2021年6月に購入した物件を2026年6月に売却すれば、実際には5年経過していても、1月1日時点では4年6ヶ月。短期譲渡所得が適用され、税率は約2倍になる。
売却のタイミングを数ヶ月ずらすだけで、手取り額が数百万円変わることがある。
これは「フレーミング効果」そのものだ。同じ売却益でも、見方(=所有期間の起算日)を変えるだけで結果が大きく変わる。
譲渡所得の計算方法──取得費と減価償却を正確に把握する
譲渡所得の計算式は「譲渡収入金額−(取得費+譲渡費用)」で求められる。
取得費には土地・建物の購入代金・仲介手数料・登録免許税・印紙税などが含まれる。
ここで重要なのが建物の減価償却だ。
建物の取得費は購入代金等から減価償却費を控除した金額となる。
マイホームなど非業務用資産の減価償却費は、以下の算式で計算する。
減価償却費=建物購入代金×0.9×償却率×経過年数
木造なら償却率0.031・耐用年数33年、鉄筋コンクリート造なら償却率0.015・耐用年数70年が適用される。
例えば、1986年8月に6,000万円(建物4,000万円、土地2,000万円)で取得した鉄筋コンクリート造マンションを2025年5月に売却した場合、経過年数は39年、減価償却費は4,000万円×0.9×0.015×39年=2,106万円、取得費は6,000万円−2,106万円=3,894万円となる。
築年数が長いほど減価償却費が大きくなり、取得費が減少する。取得費が減れば譲渡所得が増え、税額も増える。
取得費が分からない場合は、売却価額の5%を概算取得費とすることができる。
しかし概算取得費を使うと、実際の購入価格より低くなるケースが多く、税負担が増える可能性が高い。
購入時の売買契約書、領収書、登記費用の明細は必ず保管しておくべきだ。
印紙税──契約書に貼る「見落としがちな出費」
現在、不動産取引を活性化させる目的で、印紙税の軽減措置が実施されている。平成26年4月1日から令和9年(2027年)3月31日までに作成される不動産売買契約書については、本則税率から税額が引き下げられている。
例えば、1,000万円超5,000万円以下の取引で本則20,000円が軽減後は10,000円となる。
5,000万円超1億円以下では通常60,000円のところ30,000円に軽減される。
印紙税は買主と売主それぞれが契約書を保管するため、原則として双方が負担する。
電子契約は印紙税法の適用外であることから、印紙は不要だ。
2027年3月31日を過ぎると軽減措置が終了し、印紙税は本則に戻る可能性がある。売却を検討中なら、このタイミングも計算に入れるべきだ。
登録免許税──抵当権抹消にかかる税金
住宅ローンが残っている場合、売却時に抵当権を抹消する必要がある。
登録免許税の計算は「不動産1個×1,000円」で、土地2筆+建物1棟なら3,000円となる。
司法書士報酬と合わせた抵当権抹消費用の相場は、総額1.9〜2.5万円程度だ。
2026年4月1日から、住所や氏名が変わった場合の変更登記も義務化されている。変更日から2年以内に申請しないと、5万円以下の過料が科される可能性がある。
抵当権抹消登記は住所変更と同時に手続きすることで、二度手間と追加費用を避けられる。
3000万円特別控除──自宅売却の最強の節税ツール
不動産を売却して利益(譲渡所得)が出るときは、基本的に税金がかかる。しかし、売却する不動産がマイホームであれば3000万円の特別控除で利益を差し引くことが可能だ。
譲渡所得が3,000万円以下なら、譲渡所得税はゼロになる。
3000万円分の所得ということは、税額でいえば約600万円(20%)も変わる。この特例が使えるかどうかは非常に重要だ。
適用要件を確認しよう。
3,000万円特別控除の適用要件は、自宅の売却であること、特別な関係先への売却でないことなどがある。
転居等で既にマイホームに住んでいない場合、住まなくなった日から3年を経過する日の属する年の12月31日までに売却すれば3,000万円特別控除の対象となる。
例えば2023年6月に退去した場合、2026年12月31日までの売却で適用可能だ。実質約3年半の猶予がある。
3,000万円の特別控除には利用頻度の制限がある。売却した年の前年および前々年の3年間にわたって、3,000万円の特別控除やマイホームの譲渡損失についての損益通算、繰越控除の特例を利用していないことが条件だ。
3,000万円の特別控除は、親子や夫婦など「特別な関係がある人」へ売却する場合は適用できない。
10年超所有軽減税率──長期保有者への税率優遇
不動産を10年以上所有したマイホームを売却すると、軽減税率の特例が適用され、通常の長期譲渡所得(税率20.315%)よりも低い税率で課税される。売却益6,000万円以下の部分は14.21%(所得税10.21%+住民税4%)に軽減される。
ただし、特例の軽減税率の適用は譲渡所得のうち6,000万円以下の部分までで、6,000万円を超える部分については長期譲渡所得の税率が適用される。
10年超所有軽減税率の特例は、「3,000万円特別控除」制度との併用が可能だ。
併用した場合の計算例を示す。
売却益1億円、取得費3,000万円の場合、3,000万円特別控除適用後の譲渡所得は7,000万円。6,000万円までの部分の譲渡所得税は6,000万円×14.21%=852.6万円、6,000万円超の部分は1,000万円×20.315%=203.15万円、合計1,055.75万円となる。
特例を使わなければ、7,000万円×20.315%=約1,422万円。約370万円の節税効果がある。
買換え特例──住み替え時の課税繰延べ
マイホームの買い替え特例(特定の居住用財産の買換えの特例)とは、マイホームを買換えた際にかかる譲渡所得税の納税タイミングを、将来に繰り延べることができる制度だ。2027年12月31日までに売却し、一定要件を満たした場合に適用できる。
この特例は、居住用の不動産の所有期間が10年を超え、居住期間が10年以上の場合に適用できる。
売却代金が1億円以下であることが条件となる。これを超える場合、特例の適用は受けられない。
居住用財産の買換え特例は、譲渡所得税が非課税になるのではなく、買換えたマイホームを売却する際に課税されることになるので注意が必要だ。
買換え特例は、3,000万円特別控除+10年超所有軽減税率の特例との選択制になっている。
令和8年度税制改正大綱により、居住用財産の買換え特例の適用期限は2027年12月31日まで2年間延長される見込みだ。
買換え特例を選択するか、3,000万円控除+軽減税率を選択するかは、将来の売却予定や資金計画によって異なる。
長期的視点での検討が必要だ。
相続した空き家の3,000万円特別控除──相続人向け特例
相続した「空き家」を一定の要件を満たして売ると、譲渡所得から最高3,000万円を控除できる。平成28年4月1日から令和9年12月31日までの譲渡が対象だ。
相続人が3人以上の場合は1人あたり最高2,000万円に縮小される。
適用には「相続開始から3年を経過する日の属する年の12月31日まで」という期限と、市区町村長が発行する確認書が必須だ。
耐震改修・取壊しの段取りを早めに決めることが重要だ。
譲渡損失の繰越控除──売却で損が出た場合の救済措置
マイホームを売却して損失が生じた際には、「居住用財産の譲渡損失の損益通算及び繰越控除の特例」を利用することで、その損失額を給与所得などの他の所得から控除できる。
この特例は最大4年間(売却年+翌年以降3年間)にわたって損失を繰り越せる。
売却損が出た場合でも、確定申告をすることで節税効果を得られる可能性がある。
確定申告の実務──期限と必要書類を把握する
マンションを売却した場合の確定申告は、原則として売却した翌年の2月16日〜3月15日の間に行う。ただし、2026年は3月15日が日曜日であるため3月16日(月)までとなる。
譲渡所得税は利益が出た場合のみ発生するが、3,000万円特別控除などの特例を適用して税額がゼロになる場合でも確定申告は必要だ。
確定申告に必要な主な書類は以下の通りだ。
・確定申告書(分離課税用)
・譲渡所得の内訳書
・売買契約書のコピー(購入時・売却時)
・取得費・譲渡費用の領収書等
・登記事項証明書
・住民票(特例適用の場合)
これらの書類は売却前から計画的に準備しておくべきだ。
税金シミュレーション──具体的な計算例
実際の計算例を見てみよう。
【ケース1】3,000万円特別控除で税金ゼロ
・売却価格:5,000万円
・取得費:2,500万円
・譲渡費用:200万円
・譲渡所得:5,000万円−2,500万円−200万円=2,300万円
・3,000万円控除適用後:2,300万円−3,000万円=▲700万円(課税なし)
・譲渡所得税:0円
【ケース2】3,000万円控除+軽減税率の併用
・売却価格:8,000万円
・取得費:3,000万円
・譲渡費用:300万円
・所有期間:15年(10年超)
・譲渡所得:8,000万円−3,000万円−300万円=4,700万円
・3,000万円控除適用後:4,700万円−3,000万円=1,700万円
・軽減税率適用(14.21%):1,700万円×14.21%=約241万円
・特例を使わない場合:4,700万円×20.315%=約955万円
・節税効果:約714万円
特例選択の判断軸──3つの質問で最適解を導く
どの特例を選ぶべきか迷ったら、以下の3つの質問に答えよう。
第一の質問:「今後10年以内に買換え先のマイホームを売却する予定があるか?」
予定がある場合、買換え特例は将来の課税が膨らむ可能性がある。3,000万円控除+軽減税率の方が有利なケースが多い。
第二の質問:「譲渡所得は6,000万円を超えるか?」
6,000万円を超える場合、10年超所有軽減税率の恩恵が限定的になる。買換え特例で課税繰延べを選ぶ判断もあり得る。
第三の質問:「現金の手元資金を確保する必要があるか?」
住み替え資金が不足する場合、買換え特例で当面の税負担を軽減し、資金を確保する戦略が有効だ。
ただし、
買換え特例適用後に単純に売却すると、繰り延べられていた税金が一斉にかかってくる。選択については長期的に検討して判断することが必要だ。
売主が今日からできる3つのアクション
第一のアクション:購入時の書類を探し出す。
売買契約書、領収書、登記費用の明細があれば、正確な取得費を計算できる。概算取得費(売却価格の5%)を使うと損をするケースが多い。
第二のアクション:所有期間の起算日を確認する。
売却する年の1月1日時点で5年超か、10年超かで税率が大きく変わる。売却タイミングを数ヶ月調整するだけで、数百万円の節税効果が生まれる可能性がある。
第三のアクション:不動産会社に「税金シミュレーション」を依頼する。
査定を依頼する際、想定売却価格での税金シミュレーションを出してもらう。手取り額を把握した上で、売却の意思決定を行う。
編集部まとめ
マンション売却の税金は、知識の有無で手取り額に数百万円の差が生まれる。
譲渡所得税は所有期間5年超で約20%、5年以下で約40%。3,000万円特別控除を使えば、譲渡所得3,000万円以下なら税金ゼロ。10年超所有なら軽減税率で6,000万円以下の部分は14.21%に。
印紙税は2027年3月31日まで軽減措置あり。登録免許税は不動産1個につき1,000円。
買換え特例は2027年12月31日まで適用可能だが、課税の繰延べであり非課税ではない。
これらの税制を正しく理解し、最適な特例を選択することが、マンション売却で損をしないための第一歩だ。
売却を検討しているなら、まず購入時の書類を探し出すことから始めよう。
執筆:マンション売却ジャーナル編集部




