2026年マンション売却「築年数別」市場動向──築10年・築20年・築30年超、築年帯ごとの売れやすさ・価格維持率・購入検討者層の違いを全国データから徹底分析する
- 2025年12月24日
- 読了時間: 11分
あなたは「築年数」で売れるかどうかが決まると思っていないか
マンション売却を検討する売主の多くが、最初に気にするのは築年数である。
「築20年を超えたから売りにくいのでは」「築30年なんて買い手がつくのか」。
こうした不安を抱える売主に、不動産会社の営業マンは「築年数が古いと厳しいですね」と言いたがる。
しかし、この言説には明確な意図がある。
売主の不安を煽り、査定額を低めに誘導し、早期成約で仲介手数料を確保したいという営業サイドの思惑である。
実態は異なる。
東日本レインズが公表する2024年度の成約データを精査すると、築年数と売れやすさの関係は一般に信じられているほど単純ではない。
築30年超の物件でも適正価格であれば2ヶ月以内に成約している事例は多数存在する。
一方で築10年以内でも6ヶ月以上売れ残る物件も珍しくない。
本稿では、築年数という「見えやすい指標」に惑わされず、築年帯ごとの市場特性を正確に把握するための視座を提供する。
築年数が価格に与える影響は「減価償却」ではなく「市場心理」である
まず理解すべきは、マンションの価格下落が建物の物理的劣化とは直接連動しないという事実である。
鉄筋コンクリート造のマンションは、適切な維持管理がなされていれば築50年でも構造的な問題は生じにくい。
国土交通省の「マンションストック長寿命化等モデル事業」の報告書でも、築40年超のマンションが大規模修繕を経て資産価値を維持している事例が多数報告されている。
では、なぜ築年数が経過すると価格が下がるのか。
答えは購入検討者の心理にある。
行動経済学でいう「アンカリング効果」が強く作用している。
購入検討者は「新築」を基準点として物件を評価する。
築年数が経過するほど新築からの距離が遠くなり、心理的な割引を求める。
この割引率は、建物の実際の劣化度合いとは無関係に、市場の「相場観」によって決まる。
つまり、築年数による価格下落は物理的減価ではなく、市場心理の反映なのである。
築10年以内──「築浅プレミアム」の正体と崩壊のタイミング
築10年以内の物件は「築浅」と呼ばれ、購入検討者から高い人気を誇る。
東日本レインズの2024年データによると、首都圏における築0〜5年の中古マンション成約単価は平均で新築分譲時の95〜100%を維持している。
築6〜10年では85〜95%程度である。
この「築浅プレミアム」の源泉は、設備の新しさ、デザインの現代性、そして住宅ローン控除の適用期間の長さにある。
特に2024年以降の住宅ローン控除制度では、新築住宅に対して最大13年間の控除が適用される。
中古住宅でも要件を満たせば10年間の控除が受けられるが、築年数が経過するほど控除期間の残存価値は目減りする。
購入検討者はこの「税制メリットの残存年数」を無意識に織り込んで価格を判断している。
しかし、築浅物件にも落とし穴がある。
新築時の分譲価格が市場実勢から乖離していた場合、築5年を経過した段階で大幅な価格調整を余儀なくされる。
2020〜2023年に都心部で分譲された超高額タワーマンションの一部では、築3年で売り出し価格から15%以上値下げしても成約しない事例が出始めている。
現役営業マンの証言では、「新築時の価格設定が強気すぎた物件は、築浅でも苦戦する」とのことである。
築11〜20年──「最も取引が活発な築年帯」の理由
東日本レインズの成約統計を時系列で追うと、築11〜20年の物件が最も取引件数が多い築年帯であることがわかる。
2024年度の首都圏中古マンション成約物件のうち、この築年帯が占める割合は約28%である。
なぜこの築年帯が「売れ筋」なのか。
理由は購入検討者の「損失回避バイアス」にある。
人間は利益を得ることよりも、損失を回避することに強く動機づけられる。
築11〜20年の物件は、新築からの値下がりがある程度進行しており、「これ以上は大きく下がらないだろう」という安心感を購入検討者に与える。
同時に、設備や内装がまだ使用可能な状態であり、大規模なリフォーム費用を見込む必要がない。
この「下値リスクの限定」と「追加投資の抑制」という二つの損失回避要因が、築11〜20年の物件に購入検討者を引き寄せている。
価格維持率の観点では、この築年帯は新築分譲時の65〜80%程度で推移することが多い。
ただし、立地条件による格差が最も顕著に表れる築年帯でもある。
都心部の駅近物件では新築時の85%以上を維持する一方、郊外の駅遠物件では50%を割り込む事例も珍しくない。
築21〜30年──「大規模修繕」と「管理組合の健全性」が価格を左右する
築21〜30年の物件は、マンションの寿命において重要な転換点を迎える。
一般的に、マンションは築12〜15年で1回目の大規模修繕、築24〜28年で2回目の大規模修繕を実施する。
この2回目の大規模修繕の実施状況と、今後の修繕積立金の見通しが、物件価格に決定的な影響を与える。
国土交通省の「マンション総合調査」によると、修繕積立金が計画通りに積み立てられているマンションは全体の約35%に過ぎない。
残りの65%は積立不足の状態にある。
購入検討者はこの事実を認識し始めている。
ある大手仲介会社では、築25年以上の物件については「長期修繕計画」と「修繕積立金の残高推移」を必ず確認するよう購入検討者にアドバイスしている。
管理組合の健全性が価格に織り込まれる時代になったのである。
逆に言えば、修繕積立金が適正に積み立てられ、大規模修繕が計画通り実施されているマンションは、築25年でも新築時の60〜70%の価格を維持できる。
売主にとって、この築年帯での売却成功の鍵は「管理の見える化」にある。
管理組合の議事録、長期修繕計画書、修繕積立金の収支報告書を購入検討者に開示できる状態にしておくことが、価格維持の絶対条件である。

築31年超──「旧耐震」と「新耐震」の分水嶺
築31年を超えると、建築基準法の改正時期による区分が価格に大きく影響する。
1981年6月1日以降に建築確認を受けた建物は「新耐震基準」、それ以前は「旧耐震基準」に分類される。
2025年現在、旧耐震基準のマンションは築44年以上ということになる。
この「旧耐震」「新耐震」の区分は、購入検討者の心理に極めて強く作用する。
住宅ローン審査においても、旧耐震物件は融資条件が厳しくなる傾向がある。
一部の金融機関では旧耐震物件への融資を行わない方針を明確にしている。
また、住宅ローン控除の適用においても、旧耐震物件は耐震基準適合証明書の取得が必要となり、手続きのハードルが上がる。
この結果、旧耐震物件の購入検討者層は現金購入が可能な投資家や、リノベーション前提の実需層に限定される。
流動性が大幅に低下するため、価格は新耐震の築30年物件と比較して20〜30%低くなる傾向がある。
しかし、ここに売主が認識すべき重要な事実がある。
築31〜35年の「新耐震初期」物件は、旧耐震の烙印を押されることなく、比較的安定した需要が存在する。
特に都心部の好立地物件では、リノベーション需要を背景に成約事例が増加している。
東京カンテイの調査では、築30〜35年の都心3区(千代田・中央・港)物件の価格維持率は新築時の50〜60%を維持している。
築年帯別の購入検討者プロファイル──誰が買うのかを理解する
売却戦略を立てるうえで不可欠なのは、築年帯ごとに異なる購入検討者層を正確に把握することである。
築10年以内の購入検討者は、共働き世帯の30代が中心である。
住宅ローン控除の最大活用、子育て環境の確保、将来の資産性を重視する。
内覧時には「新築同様かどうか」を厳しくチェックし、設備の古さや使用感に敏感である。
築11〜20年の購入検討者は、40代のファミリー層と投資目的の個人が混在する。
価格と広さのバランスを重視し、「多少の古さは許容するが、立地は妥協しない」という志向が強い。
管理状態と周辺環境への関心が高い。
築21〜30年の購入検討者は、50代以上のダウンサイザーと、若年層のリノベーション志向者に二極化する。
前者は住宅ローン残債がなく、現金購入比率が高い。
後者は立地を優先し、内装は自分好みに変更する前提で購入する。
築31年超の購入検討者は、投資家とリノベーション業者が大半を占める。
実需層は限定的で、購入後の出口戦略まで見据えた判断をする。
価格交渉が熾烈になりやすく、売主にとっては忍耐を要する取引となる。
築年数よりも「価格設定」が売れるかどうかを決める
ここまで築年帯ごとの特性を解説してきたが、最も重要な事実を述べる。
築年数は売却の難易度を決める決定的要因ではない。
価格設定が適正であれば、どの築年帯でも売れる。
価格設定が適正でなければ、築浅でも売れない。
東日本レインズの統計では、成約物件の平均販売期間は築年数にかかわらず概ね2〜3ヶ月である。
一方で、売り出しから6ヶ月以上経過しても成約に至らない物件も築年数を問わず存在する。
両者を分けるのは、価格設定の精度である。
ある大手仲介会社の内部データでは、売り出し価格と成約価格の乖離率が3%以内の物件は平均45日で成約している。
乖離率が10%を超える物件は平均180日以上かかっている。
売主が認識すべきは、「希望価格」と「市場が受け入れる価格」は別物だということである。
心理学でいう「授かり効果」(保有効果)により、売主は自分の物件を過大評価しがちである。
この心理バイアスを自覚し、市場データに基づいた客観的な価格設定を行うことが、築年数を問わず売却成功の鍵となる。
全国エリア別の築年数影響度──首都圏・近畿圏・中部圏の違い
築年数が価格に与える影響は、エリアによって異なる。
首都圏、特に東京23区では、築年数による価格下落率が相対的に緩やかである。
土地の希少性が高く、建物の価値よりも立地の価値が価格を支えるためである。
近畿圏では、大阪市中心部と神戸・京都の人気エリアで首都圏に近い傾向が見られる。
一方で、郊外ニュータウン型の物件では築年数による価格下落が首都圏より顕著である。
近畿圏レインズのデータでは、築30年超の郊外物件は新築時の30〜40%まで下落する事例が珍しくない。
中部圏では、名古屋市中心部とそれ以外の格差が鮮明である。
名古屋駅周辺や栄エリアでは築20年でも新築時の70%以上を維持する物件がある。
しかし、郊外では築15年を超えると流動性が急激に低下する。
中部レインズのデータによると、名古屋市外の築25年超物件の平均販売期間は180日を超えている。
地方都市では、築年数の影響がさらに顕著になる。
人口減少が進む地域では、築20年を超えると需要が極端に限られ、価格よりも「売れるかどうか」が焦点となる。
2025年以降の築年数別市場予測──金利上昇がもたらす変化
2024年から始まった日銀の金融政策正常化により、住宅ローン金利は上昇傾向にある。
この金利上昇は、築年帯ごとに異なる影響を及ぼすと予測される。
築浅物件への影響は限定的である。
金利上昇による購買力低下は、まず高額物件から影響が出る。
しかし、築浅物件を購入する層は相対的に年収が高く、金利上昇への耐性がある。
築11〜20年の物件には追い風が吹く可能性がある。
新築や築浅の高額物件を諦めた購入検討者が、価格帯の下がる中古市場に流入するためである。
「新築至上主義」からの転換が加速し、この築年帯への需要が高まると予測される。
築21年超の物件は、二極化が進む。
管理状態が良好で立地条件に優れる物件は、リノベーション需要に支えられて安定した成約が見込める。
一方、管理不全や立地不利の物件は、金利上昇による購買力低下の影響を直接的に受ける。
融資を受けにくい築古物件は、現金購入層のみがターゲットとなり、流動性がさらに低下する。
売主が今日から実践すべき築年数対策
築年数を変えることはできない。
しかし、築年数が価格に与えるネガティブな影響を最小化することは可能である。
築10年以内の売主は、「新築との差別化」を意識すべきである。
新築よりも広い、新築よりも立地が良い、新築よりも即入居可能、という優位性を明確に打ち出す。
築浅物件の購入検討者は新築と比較検討しているという前提で、価格設定と訴求ポイントを決める。
築11〜20年の売主は、「管理状態の見える化」に注力すべきである。
管理組合の財務状況、大規模修繕の実施履歴、今後の修繕計画を文書で提示できる状態にしておく。
購入検討者の「損失回避」心理に応えることで、価格交渉を優位に進められる。
築21〜30年の売主は、「リノベーション前提の訴求」を検討すべきである。
現状のまま住める状態を維持しつつ、リノベーションした場合の可能性を購入検討者に想起させる。
間取り変更の自由度、水回りの配管状況、管理規約上のリフォーム制限の有無などを整理しておく。
築31年超の売主は、「ターゲットの絞り込み」が鍵となる。
実需層に広く訴求するのではなく、投資家やリノベーション業者に直接アプローチする戦略を検討する。
一般媒介で複数の不動産会社に依頼し、買取業者への打診も並行して進めるのが現実的である。
編集部まとめ
築年数は確かにマンション価格を左右する要素の一つである。
しかし、築年数だけで売れる・売れないが決まるわけではない。
築年帯ごとに異なる購入検討者の心理と、市場が求める価格水準を正確に把握すること。
それが、築年数という「変えられない条件」を乗り越える唯一の方法である。
本稿で示した築年帯別の特性と対策を踏まえ、自身の物件の立ち位置を客観的に見極めてほしい。
築年数を言い訳にするのは、不動産会社の常套句である。
売主自身が市場を理解し、適正価格で勝負する覚悟を持てば、どの築年帯でも売却は成功する。
執筆:マンション売却ジャーナル編集部




