築浅マンション売却実践記録──購入から3年・第二子出産による住み替え・住宅ローン残債2,100万円・短期譲渡所得税の複合課題を乗り越え、新築価格との価格設定・オーバーローン対策・売却タイミング調整を経て、家族全員が納得する成約を実現した全プロセス
あなたはまだ「築浅だから新築価格で売れる」と思っていないか
購入から3年。第二子の出産を控え、部屋が手狭になった。
住み替えを決意したものの、住宅ローン残債2,100万円が重くのしかかる。
「築浅だから高く売れるはず」——その楽観が、売却失敗の入り口である。
本稿では、購入から3年・住宅ローン残債あり・短期譲渡所得税の課題を同時に抱えた家族が、どのように売却を成功させたか。その全プロセスを、業界の内側から解説する。
なぜ「築浅」は売却が難しいのか——新築プレミアムの喪失
「築浅なら新築価格と大差ないはず」。
この認識は、行動経済学でいう「アンカリング効果」の典型である。
人は最初に見た数字に引きずられる。購入時に支払った金額が「正当な価値」として脳に刻まれ、それ以下の価格を受け入れられない。
しかし現実は違う。
中古マンションは新築の6割程度で購入できる割安感があり、買い手の目線は新築価格と乖離する。
不動産会社によっては築10年以内の物件を「まだ築浅」と表現するケースもあるが、一般的には築3年〜5年以内の不動産を「築浅住宅」「築浅物件」と呼ぶ。
つまり購入から3年の物件は「築浅」カテゴリーに入るものの、「新築」ではない。
この差が、想定以上の価格差を生む。
短期譲渡所得税39.63%の壁——売却タイミングの罠
購入から3年で売却すると、もう一つの壁にぶつかる。
短期譲渡所得税である。
長期譲渡所得の税率が20.315%に対して、短期譲渡所得は39.63%と倍近くの税率になっている。不動産の所有期間が違うだけで、支払う税金の額にも大きく差が出る。
ここで重要なのは、「5年」の数え方だ。
税法上は「売却年の1月1日時点」で所有期間を判断する。2021年2月1日に不動産を購入し、2026年1月31日に売却した場合、物理的に所有している期間は5年だが、売却年である2026年の1月1日時点では5年が経過していないため、「短期譲渡所得」として扱われる。
購入が2023年であれば、2029年1月1日以降に売却しないと長期譲渡所得にならない。
つまり、5年間「住んでいた」では足りない。売却年の1月1日時点で5年超の所有が必要なのだ。

ケーススタディ:Aさん一家の状況整理
今回のケースの主人公は、首都圏在住のAさん一家(夫34歳・妻32歳・長女4歳)である。
2023年5月に新築マンション(3LDK・70㎡)を4,500万円で購入。頭金500万円を入れ、4,000万円の住宅ローンを組んだ。
購入から3年が経過した2026年春。第二子の妊娠が判明した。
現在の3LDKでは、将来的に子ども部屋が足りなくなる。4LDK以上への住み替えを決意した。
この時点での課題は3つ。
第一に、住宅ローン残債2,100万円の処理。
第二に、2026年中に売却すると短期譲渡所得税が課される可能性。
第三に、新築プレミアムが剥落した状態での価格設定。
オーバーローンとアンダーローンの見極め
住み替えの成否は、まず「売却価格がローン残債を上回るかどうか」で決まる。
オーバーローンとは、売却代金よりもローン残高が上回る状態をいう。例えば住宅ローン残高が2,500万円あるのに、売却価格が2,000万円の場合は、500万円不足する計算になる。
アンダーローンとは、売却代金がローン残高を上回る状態のことをいう。例えば住宅ローンの残高が2,000万円に対して、家を2,500万円で売却できれば、約500万円が手元に残る計算になる。
Aさんのケースでは、ローン残債2,100万円に対し、複数社の査定価格は4,200万円〜4,400万円。
仲介手数料や諸費用を差し引いても、手残りが出る「アンダーローン」の状態であった。
住宅ローンが残っている不動産であっても、ローンの一括完済と抵当権抹消を条件に売ることはできる。
これが確認できた時点で、Aさん一家の住み替えは現実味を帯びた。
3000万円特別控除——短期譲渡でも使える「最強の切り札」
「短期譲渡だから税金が39.63%かかる」と諦めるのは早い。
居住用財産には「3000万円特別控除」という強力な特例がある。
「居住用財産の3,000万円特別控除」という制度を活用すれば、一定の条件を満たすことで譲渡所得から最大3,000万円を差し引くことが可能である。
この特例の重要なポイントは、所有期間の制限がないことだ。
居住用3,000万円控除の特例は、売却物件の所有期間や住んでいた期間の要件はない。居住していた期間が短期間であっても、実際に自宅として利用していた場合、特例を適用することは可能である。
Aさんのケースで計算してみよう。
売却価格4,300万円、取得費4,500万円(減価償却後4,350万円)、諸経費150万円の場合。
譲渡所得=4,300万円-(4,350万円+150万円)=▲200万円。
譲渡所得がマイナスならば、そもそも課税されない。
仮に譲渡益が出た場合でも、
控除を受けない場合は所有期間が5年以下の短期譲渡所得の税率が適用され約238万円の課税額になるが、3000万円控除を適用すれば課税額は0円になる。
ただし3000万円控除には「落とし穴」がある
3000万円特別控除は万能ではない。
注意すべき制限がある。
売却する不動産に住んでいた目的が、居住用3,000万円控除を適用するための居住や一時的な居住の場合、特例の対象外となる。
つまり、投資目的で購入し、形だけ住民票を移したケースは認められない。
居住用財産の売却先が親や配偶者など特別関係者の場合、3,000万円控除は適用できない。
また、この特例を使うと、買い替え先の住宅ローン控除が受けられなくなる点にも注意が必要だ。
マイホームを売った年の前年および前々年にこの特例の適用を受けていないこと、マイホームの買換えやマイホームの交換の特例の適用を受けていないことが要件となる。
Aさんの場合、過去2年間に特例を使った履歴はなく、また売却先は一般の第三者。すべての要件を満たしていた。
市況を味方につける——2026年の中古マンション市場
売却の成否は、市況にも左右される。
2026年時点でも、マンション価格は高値圏で推移している。国土交通省が2026年2月27日に公表した「不動産価格指数」によると、戸建住宅などに比べてマンションの価格は上昇基調が続いている。
首都圏の最新データを見ると、
2026年5月の首都圏中古マンション成約価格は5,067万円となった。
2026年2月の成約㎡単価は85.61万円/㎡となり、前年同月比で8.2%上昇した。この数値は、1990年9月に記録したバブル期の水準を引き続き上回っている。
つまり、築浅物件であれば、購入時と同等かそれ以上での売却も不可能ではない環境にある。
ただし、楽観は禁物だ。
成約㎡単価は85.93万円/㎡にとどまり、売り出し価格と成約価格の乖離は大きく広がり続けている。売り手の価格水準はさらに上を見ている一方で、買い手側はその価格に対して慎重さを強めている。
Aさんの価格戦略——「新築価格」を捨てる決断
現役営業マンの証言では、築浅物件の売主は「新築で買った価格」に執着するケースが多いという。
これは心理学でいう「授かり効果」(Endowment Effect)である。
自分が所有しているものの価値を、実際より高く見積もる認知バイアスだ。
Aさんも当初、4,500万円で購入した物件を「4,500万円以上で売りたい」と考えていた。
しかし、ある大手仲介会社の担当者はこう断言した。
「新築プレミアムは、鍵を開けた瞬間に消える。中古市場では、周辺の成約事例が全てです」
Aさんが参考にすべきは、購入価格ではない。同一マンション・近隣の成約事例だ。
調査の結果、同じマンションの別住戸(2年前購入)が4,250万円で成約していた。
Aさんは4,380万円で売り出し、最終的に4,300万円で成約した。
購入価格より200万円低いが、住宅ローン完済と諸費用を差し引いても約1,800万円が手元に残った。
売却タイミングの最適化——「売り先行」か「買い先行」か
住み替えには「売り先行」と「買い先行」の二つの戦略がある。
売り先行:現住居を先に売却し、その後に新居を購入する。
買い先行:新居を先に購入し、その後に現住居を売却する。
Aさん一家は「売り先行」を選択した。
理由は三つ。
第一に、資金計画が確定する。売却価格が決まれば、新居の予算が明確になる。
第二に、二重ローンのリスクを回避できる。買い先行の場合、現住居が売れるまで二重のローン返済が発生する。
第三に、妻の出産予定日が半年後。引っ越しのスケジュールを柔軟にコントロールする必要があった。
売り先行のデメリットは、売却後に仮住まいが必要になる可能性があること。
Aさんは、引き渡し日を買主と交渉し、新居の契約・ローン審査と並行して進めることで、仮住まいなしの直接住み替えを実現した。
オーバーローン時の切り札——住み替えローンという選択肢
Aさんはアンダーローンだったが、オーバーローンの場合はどうか。
住み替えローンとは、自宅を売却してもローンを完済できない場合に、残債と新しい家の購入資金をまとめて借りられるローンのことである。
住宅ローン残債が売却価格より上回っている状態でも、自己資金・住み替えローン・任意売却を用いることで売却が可能となる。
ただし、住み替えローンの審査は通常より厳しい。
住み替えローンでは、新居の購入資金にくわえて、現在の住宅のローン残債も借り入れるため、借入額が新居の担保価値を上回るオーバーローンの状態になる。このような場合、金融機関は貸し倒れリスクを懸念し、審査を厳格化する。
審査内容は、まず債務者の返済能力(勤続年数・収入・勤務先)が確認される。また、現状の健康状態が良好で、団体信用生命保険に加入できることが求められる。
売却活動の実際——内覧対応と価格交渉
Aさんは売り出しから2か月で成約に至った。
この期間に行った内覧は8件。そのうち3件から購入申込があった。
内覧対応で意識したのは「生活感の排除」と「清潔感の演出」。
現役営業マンの証言によれば、築浅物件の購入検討者は「新築に近い状態」を期待する。
Aさんは内覧前に、子どものおもちゃ類を収納し、水回りの清掃を徹底した。
また、内覧時は夫婦で立ち会い、購入時の経緯や住み心地を自然に伝えた。
購入者が決まったのは、同じく子育て中の30代夫婦。
「実際に住んでいる方の話が聞けて安心した」という声が決め手になったという。
契約から引き渡しまで——スケジュール調整の実際
売買契約を締結したのは売り出しから2か月後の6月中旬。
引き渡しは9月末に設定した。
この3か月半の間にAさん一家が並行して進めたのは以下の通り。
新居の物件探し(7月中に決定)。
新居の住宅ローン審査(8月上旬に承認)。
新居の契約・決済(9月中旬)。
現住居の引き渡し(9月末)。
新居への引っ越し(10月上旬)。
出産予定日(11月)。
出産前に新居での生活を始めるという目標を達成した。
資金の流れ——手残りと次の住宅購入の原資
最終的な資金の流れを整理する。
売却価格:4,300万円。
住宅ローン残債返済:▲2,100万円。
仲介手数料(3%+6万円+消費税):▲約150万円。
登記費用・印紙代等:▲約20万円。
手残り:約2,030万円。
この2,030万円を、新居購入の頭金として活用した。
新居は4LDK・85㎡で5,500万円。頭金1,500万円を入れ、4,000万円の住宅ローンを組んだ。
残り530万円は、引っ越し費用・出産費用・予備資金として確保した。
税務処理——確定申告で必要な書類
Aさんのケースでは、売却価格が取得費を下回ったため、譲渡損失が発生した。
譲渡損失の場合、確定申告は「任意」だが、特例を使う場合は「必須」となる。
Aさんは「居住用財産の譲渡損失の損益通算及び繰越控除」の適用を検討したが、今回は使わなかった。
理由は、新居の住宅ローン控除を優先したためである。
売却時に必要な書類は以下の通り。
売買契約書(売却時・購入時の両方)。
登記事項証明書。
仲介手数料の領収書。
住民票の除票(旧住所を証明するため)。
これらは売却翌年の確定申告まで保管しておく必要がある。
失敗しないための「5つの質問」——不動産会社選びの判断軸
Aさんが不動産会社選びで使った質問を紹介する。
第一に、「同一マンション・近隣の成約事例を教えてください」。レインズのデータを開示できる会社を選ぶ。
第二に、「売り出し価格と成約価格の乖離率は何%ですか」。
首都圏中古マンションの2026年6月データでは、成約価格は5,208万円、新規登録価格は6,626万円と乖離がある。
この差を理解している会社を選ぶ。
第三に、「囲い込みをしない方針を書面で示せますか」。売主の利益を最優先する姿勢を確認する。
第四に、「3000万円特別控除の適用要件を説明してください」。税務知識のある担当者かどうかを見極める。
第五に、「引き渡し日の調整はどこまで可能ですか」。住み替えスケジュールに柔軟に対応できるかを確認する。
編集部まとめ
築浅マンションの売却は、「新築プレミアムの喪失」「短期譲渡所得税」「オーバーローンリスク」という三つの壁がある。
しかし、3000万円特別控除を正しく理解し、市況を味方につけ、売却タイミングを最適化すれば、家族全員が納得する成約は実現できる。
Aさん一家のケースが示すのは、「購入価格への執着を捨てる」ことの重要性だ。
中古市場では、あなたが支払った金額は関係ない。周辺の成約事例と買い手の評価がすべてである。
この原則を理解している売主は、築浅であっても損をしない。
これが、住み替えを成功させる第一歩である。
執筆:マンション売却ジャーナル編集部




