政策金利1%時代到来──日銀31年ぶり利上げ×都心在庫急増×成約価格下落が示す「金利ある世界」のマンション売却戦略と、首都圏・近畿圏の最新市況を徹底解説
- 8月4日
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あなたは「金利なんて上がらない」と思い込んでいないか
2026年6月16日、日本銀行は政策金利を1.0%に引き上げた。
この水準は1995年以来31年ぶりの高水準である。
「ゼロ金利時代に住宅ローンを組んだから大丈夫」。
そう考えている売主は、今すぐ認識を改めるべきだ。
日本総研の石川智久氏は「『金利のある世界』が本格的に到来した」と断言する。
さらに「半年毎に0.25%ずつ引き上げ、2027年前半には1.5%程度まで上昇する」との見通しを示している。
この金利上昇局面において、マンション売却戦略を根本から見直す必要がある。
「アンカリング効果」が売主を苦しめる
心理学に「アンカリング効果」という概念がある。
人は最初に提示された数値を基準(アンカー)として、その後の判断に影響を受けるという認知バイアスだ。
マンション売却において、この効果は売主に不利に働く。
「近所のマンションが○○万円で売れた」「一括査定で○○万円と出た」。
この数字がアンカーとなり、売主は相場を大幅に上回る価格で売り出してしまう。
2026年2月時点で、首都圏中古マンションの売出価格と成約価格の乖離は27.6%に拡大している。
わずか1年前の2025年2月には、この乖離率は10.8%だった。
つまり、売主の「期待価格」と買主の「支払い可能額」のギャップが急速に広がっているのだ。
2026年6月の首都圏データでは、成約価格5,208万円に対し、在庫価格は6,745万円。
在庫価格は前年同月比29.3%上昇している。
売れない物件が高値のまま市場に滞留し、在庫を積み上げている構図だ。
スーパーの「見切り品コーナー」を思い出せ
マンション市場で起きていることを、身近な例で説明しよう。
スーパーの総菜売り場をイメージしてほしい。
閉店間際になると、売れ残った商品は「見切り品」として値引きされる。
最初から適正価格をつけていれば定価で売れたものが、欲張って高く値付けしたために、結局は半額で処分される。
中古マンション市場で今起きていることは、まさにこれと同じだ。
2026年4月度の首都圏中古マンション成約件数は3,903件となり、前年同月比で1.2%減少した。
これは2024年10月以来、18ヶ月ぶりのマイナスである。
売り手の価格水準はさらに上を見ている一方で、買い手側はその価格に対して慎重さを強めている。
この双方の"温度差"によって、相場から乖離した高すぎる売り出し価格の物件が市場に取り残され、在庫件数を押し上げる要因となっている。
首都圏市況:成約価格は19ヶ月ぶりの下落
首都圏中古マンション市場の最新データを確認しよう。
東日本不動産流通機構によると、2026年5月の首都圏中古マンションの平均成約価格は5,067万円となり、前年同月比▲4.6%と2024年10月以来19カ月ぶりの下落となった。
2026年6月度のデータでは、成約件数4,241件(前年同月比▲1.3%、3か月連続の減少)、在庫件数45,995件(前年同月比+3.5%、4か月連続の増加)となっている。
成約㎡単価は82.64万円/㎡(前年同月比▲0.8%、2か月連続の下落)である。
数字が示す事実は明確だ。
「売れにくくなり」「在庫が増え」「価格が下がり始めた」。

東京23区:26カ月ぶりの価格下落が示す転換点
さらに衝撃的なのは、東京23区の動向だ。
東京カンテイがまとめた2026年6月の首都圏中古マンション70㎡換算価格は7,454万円となり、前月比1.3%上昇。23カ月連続で上昇を続けている。
しかし東京23区では70㎡換算価格が1億2,741万円となり、前月比0.8%下落。26カ月ぶりのマイナスとなった。
東京都では成約件数が2,136件となり、前年同月比9.5%減少した。
一方、埼玉県、千葉県、神奈川県では前年を上回り、特に千葉県では19.0%増と大きく伸びている。
都心から郊外への需要シフトが、データで裏付けられた。
都心6区:在庫急増と価格調整の始まり
都心6区(千代田区・港区・中央区・新宿区・渋谷区・文京区)の動向は、特に注視すべきだ。
LIFULL HOME'Sのレポートによると、これまで首都圏ファミリータイプの価格上昇を牽引してきた東京都心6区の掲載価格が、2026年2月(1億8,063万円)をピークに4ヶ月連続で前月を下回り、6月は1億6,800万円となっている。
都心3区の在庫は前年比+44.9%増(約1,300件が1年で積み上がり)となっている。
都心3区の売出価格と成約価格の乖離は約7,000万円(成約1億3,829万円、売出2億1,071万円)に達している。
「今の東京都心中古マンション市場をひと言で表すなら、『高値圏のまま、選別が始まった市場』」だと、ある不動産会社代表は指摘する。
「問い合わせが集まる物件と、価格調整を繰り返しても動かない物件の差が、以前より明らかに大きくなっている」という。
金利上昇が買主の購買力を直撃する
なぜ市場に変調が起きているのか。
最大の要因は、住宅ローン金利の上昇だ。
今回の1.0%への利上げを踏まえると、住宅ローンの変動金利は、2026年10月に多くの銀行が一斉に年0.25%程度引き上げる展開が最有力シナリオである。
2026年春には変動金利が0.9~1.1%台が中心となっており、超低金利時代とは大きく様変わりしている。
例えば、住宅ローン(元利均等返済)の残債が3,000万円、残りの返済期間が20年の場合、金利が0.25%上昇すると、毎月の返済額は約3,000円〜3,500円程度上がる。
これを35年ローンの新規借入に置き換えると、影響はさらに大きい。
金利0.5%上昇で、5,000万円の借入では毎月の返済額が約12,000円増加する。
年間で約15万円、35年間で約500万円の負担増だ。
買主の「買える価格」が下がれば、売主の「売れる価格」も下がる。
この連鎖は避けられない。
近畿圏市況:成約件数は10期ぶりに減少
近畿圏の動向も確認しよう。
近畿レインズによると、2026年1~3月期の中古マンション成約件数は前年同期比マイナス0.3%とほぼ横ばいながら10期ぶりに減少した。
成約㎡単価は前年同期比プラス1.7%と2020年4~6月期から24期連続で上昇している。
2026年4~6月期の平均成約価格は3,286万円(前年同期比プラス9.0%)と4期連続で上昇した。
新規登録価格は3,707万円(前年同期比プラス18.8%)と23年1~3月期から14期連続で上昇している。
近畿圏でも、売り出し価格と成約価格の乖離が広がっている構図は同じだ。
近畿圏の対象12地域中5地域が前年比で減少し、京都市は11四半期ぶり、滋賀県は7四半期ぶり、大阪市と大阪府南部は5四半期ぶりに減少した。
一方、大阪府北部は9四半期連続、神戸市は8四半期連続で増加するなど、地域差もみられた。
「損失回避バイアス」を克服せよ
ここで、もう一つの心理学的概念を紹介する。
「損失回避バイアス」だ。
人は同じ金額の利益よりも、損失のほうを約2倍強く感じるという傾向がある。
マンション売却において、このバイアスは「売り時の判断を遅らせる」という形で現れる。
「もう少し待てば高く売れるかもしれない」。
「今売ると損した気分になる」。
こうした心理が、適切な売却判断を妨げる。
しかし、データは明確だ。
在庫件数が4万5,995件と前年同月比3.5%増となり、4カ月連続で増加している。
成約㎡単価は82.64万円で前年同月比0.8%減と、2カ月連続で前年実績を下回った。
待てば待つほど、競合物件が増え、成約価格は下がる。
これが「金利ある世界」の現実だ。
売主が今日からできる3つのアクション
では、売主は具体的に何をすべきか。
第一に、「成約価格」を基準に査定を再評価する。
仲介会社が提示する査定額は、しばしば売り出し価格の水準で提案される。
しかし重要なのは「実際にいくらで売れたか」という成約事例だ。
東日本レインズが公開するデータを確認し、売り出し価格と成約価格の乖離を自分で把握せよ。
第二に、「売却期限」を自ら設定する。
「3ヶ月で売れなければ価格を見直す」「6ヶ月が限界」。
こうした期限を最初から決めておくことで、ズルズルと在庫化するリスクを避けられる。
第三に、金利動向をモニタリングする。
日本総研は「2027年前半には1.5%程度まで上昇する」と予測している。
金利が上がれば上がるほど、買主の購買力は削られる。
「今の金利水準で買える層」が、半年後には「買えなくなる層」に変わる可能性を織り込め。
仲介会社への質問リスト
媒介契約を結ぶ際、以下の質問を仲介会社に投げかけてほしい。
「このエリアの直近3ヶ月の成約㎡単価を教えてください」。
「売り出し価格と成約価格の乖離率はどれくらいですか」。
「現在の在庫件数と、1年前の在庫件数の比較を見せてください」。
「金利上昇の影響で、購入検討者の予算はどう変化していますか」。
これらの質問に、データを示して回答できる会社を選べ。
「市場は好調です」「必ず売れます」としか言わない会社は、危険信号だ。
「適正価格」の見極め方
ある大手仲介会社のベテラン営業マンは、こう証言する。
「2026年に入ってから、売主様への価格提案が難しくなった」。
「高すぎる価格で売り出して、結局半年後に大幅値下げするケースが増えている」。
適正価格を見極めるには、以下の計算式が参考になる。
「適正売り出し価格 = 直近成約㎡単価 × 専有面積 × 1.05」。
1.05は、5%程度の交渉余地を見込んだ係数だ。
2026年6月の首都圏成約㎡単価は82.64万円である。
70㎡のマンションであれば、82.64万円 × 70㎡ × 1.05 = 約6,074万円が一つの目安となる。
この計算式は、あくまで出発点だ。
築年数・階数・向き・管理状態で調整が必要だが、少なくとも「根拠のある価格設定」の第一歩にはなる。
「売れ残り物件」にならないために
「『都心だから大丈夫』『タワーだから安心』『中古でも上がる』といった単純な見方では語れない市場になってきた」。
「本当に重要なのは、これまでのように"相場全体が持ち上がる時代"から、"個別物件の質が厳しく問われる時代"へ移行しているという点」だという。
図表によると、都心3区における中古マンションの在庫は2024年7月を底に増加に転じている。
在庫の内訳を価格帯別にみると、特に1億円以上の物件が増えており、高値の物件が売れ残っている。
売れ残り物件に共通するのは、「相場を無視した強気の価格設定」だ。
近隣の新規売り出し価格を見て、「うちはもっと条件がいいから、もう少し高くても大丈夫」と考える。
しかし買主は、そうは見ていない。
買主は「金利上昇後に払える月々の返済額」から逆算して、予算を決めている。
売主の「売りたい価格」と、買主の「買える価格」。
このギャップを埋められるのは、売主だけだ。
編集部まとめ
2026年6月16日、日銀は政策金利を0.25%引き上げ、1.00%に到達させた。
「金利のある世界」が本格的に到来した今、マンション売却の常識は根本から変わる。
首都圏中古マンションの平均成約価格は19カ月ぶりに下落し、東京23区では26カ月ぶりの価格下落が確認された。
売出価格と成約価格の乖離は3割近くまで拡大している。
この事実を直視し、「成約事例に基づいた適正価格」で売り出すことが、結果として手取り額を最大化する。
待てば待つほど在庫が増え、競争が激化し、値崩れリスクが高まる。
「金利1%時代」を理解した売主だけが、損失を最小化できる。
これが、今日から始める売却戦略の第一歩だ。
執筆:マンション売却ジャーナル編集部




