マンション売却「媒介契約」完全ガイド──一般媒介・専任媒介・専属専任媒介の違いと選び方・契約期間3か月の活用法・囲い込み防止策から、物件特性に応じた最適な契約形態を見極めるための実践的フレームワーク
- 8月3日
- 読了時間: 11分
「専任媒介で大丈夫です」──その一言を、鵜呑みにしていないか
あなたは今、不動産会社の営業マンから「専任媒介契約がおすすめです」と言われている。
だが、その根拠を明確に説明できる営業マンは、業界でも少数派だ。
媒介契約は「一般」「専任」「専属専任」の3種類がある。
媒介契約の種類によっては物件の売却に時間がかかったり、売値が下がったりする場合がある。
つまり、選び方を間違えれば、数百万円単位の損失につながる。
この記事では、3種類の媒介契約の本質的な違いと、あなたの物件に最適な契約形態を見極めるための実践的フレームワークを解説する。
媒介契約の本質──不動産会社との「約束」が売却の命運を分ける
媒介契約とは、物件を売却する際、不動産会社に販売活動を依頼するために結ぶ契約のことだ。
媒介契約を結ばないと、不動産会社は仲介手数料を請求できない。これは宅建業法で定められたルールである。
逆に言えば、
媒介契約を結んでいない段階で「手数料を払ってください」と言われたら、それは違法行為となる。
売買の媒介契約には、専属専任媒介契約、専任媒介契約、一般媒介契約の3種類がある。
この3種類の違いを理解せずに契約すると、あなたは不動産会社の都合に振り回されることになる。
3種類の媒介契約──「縛りの強さ」で考えよ
媒介契約の違いを理解するには、「縛り」という視点で捉えるとわかりやすい。
スーパーマーケットで買い物をするとき、あなたは複数の店を回って値段を比較する自由がある。
しかし、「このスーパーでしか買い物しません」と約束したら、どうなるか。
その店は、あなたに対して手厚いサービスを提供するかもしれない。
一方で、競争がなくなれば、その店は値引き努力をしなくなるかもしれない。
媒介契約も同じ構造だ。
専属専任媒介契約とは、不動産仲介業者を1社だけに依頼する契約だ。売主は他の不動産業者に仲介を依頼することができない。さらに、売主自ら売買相手を見つけてきた場合でも直接売買ができず、仲介業務を依頼した不動産会社を通して売買契約をしなければならない。
専任媒介契約とは、依頼者が1つの宅地建物取引業者としか契約できず、契約期間中は他の不動産会社とは契約することが出来ない媒介契約だ。しかし、専任媒介契約は一般媒介契約同様に、依頼主が直接買い手を見つけることは可能である。
一般媒介契約において複数の不動産会社に重ねて媒介を依頼しようとする場合は、売却を依頼する他の不動産会社を明示(告知)しなければならない(「明示型」)。
レインズ登録義務と報告頻度──数字で見る「縛り」の差
一般媒介契約にはレインズへの登録義務はない。一方、専任媒介・専属専任媒介は登録の義務があり、登録までの日数も決められている。
専属専任媒介契約は媒介契約締結日の翌日から5営業日以内にレインズへの登録義務がある。専任媒介契約は媒介契約締結日の翌日から7営業日以内に登録義務がある。
専任媒介契約では、不動産会社は売主に対して2週間に1回以上、売却活動の進捗を報告することが義務付けられている。専属専任媒介契約では1週間に1回以上の報告義務がある。一般媒介契約には法的な報告義務がない。
この「報告義務」は、単なる事務作業ではない。
定期的な報告を義務付けることで、不動産会社が「ただ物件を預かっているだけ」の状態になるのを防ぎ、責任を持って販売活動を行うよう促す効果がある。
なぜ「3か月」なのか──損失回避バイアスを逆手に取れ
宅地建物取引業法第34条2項3号に、専任媒介契約の契約期間は3か月を超えることができないと定められている。
3か月の期限が設けられている理由は、専任媒介契約が1社独占で行われるため、一般媒介契約と異なり、売主にとって不利益を被る可能性があるためだ。
売主が不利な状況に長期間縛られないよう、契約期間に制限が設けられている。
ここで注目すべきは、人間の心理における「損失回避バイアス」だ。
行動経済学者ダニエル・カーネマンの研究によれば、人間は利益を得る喜びよりも、損失を被る苦痛のほうを約2倍強く感じる。
不動産会社の営業マンにとって、3か月という期限は「損失」のリスクを意味する。
更新を勝ち取れなければ、他社に顧客を奪われる。
だからこそ、この3か月という期間を戦略的に活用せよ。
契約期間内に売買が成立しなかった場合には、契約を更新して引き続き同じ不動産会社に依頼することが可能だ。しかし、更新の申し出は売主から行わなければならず、不動産会社側からの申し出による更新は行われない。
両手仲介の構造──不動産会社が「囲い込み」に走る理由
媒介契約を理解する上で、「両手仲介」と「片手仲介」の概念は欠かせない。
売主から物件の売却を依頼された不動産会社が、自社で買主を探してきて売買契約を結ぶことを「両手仲介」という。その不動産会社が売主と買主どちらの仲介も行っているからだ。一方、売主か買主のどちらか片方だけを仲介することを、片手仲介という。
両手仲介の場合、仲介手数料は売主と買主、両方から受け取ることができるが、片手仲介の場合、自社で媒介した側からしか受け取ることが出来ない。
不動産会社からすれば、両手の方が片手よりも2倍の手数料を貰える。
ここに、「囲い込み」という悪習が生まれる温床がある。
不動産における囲い込みとは、売主から依頼を受けた不動産会社が、物件情報を他の不動産業者や買主に故意に公開しない行為を指す。両手仲介(売主・買主の双方から仲介手数料を得る形)を狙うために、他社からの紹介を断るケースがある。
囲い込みが処分対象に──2025年法改正の衝撃
囲い込みは2025年1月から、ようやく行政処分の対象になった。それくらい、業界内ではグレーゾーンとして黙認されてきた慣行である。
囲い込みは2025年1月の宅建業法改正で行政指導の対象となっている。
囲い込みはグレーから、違法リスクの高い行為へと大きく転換しているのが、2026年現時点での法的位置づけといえる。
しかし、法改正だけで囲い込みがなくなるわけではない。
現役営業マンの証言では、「表向きはレインズに登録しても、他社からの問い合わせには『商談中です』と答える手口は今も横行している」という。
あなた自身が、囲い込みの被害者にならないための「防御策」を身につける必要がある。
囲い込みを見抜く5つのサイン
囲い込みは外から見えにくい行為だ。しかし、売主の立場からでも違和感として囲い込みに気づけるポイントがある。
第一のサインは、レインズ登録証明書が渡されないことだ。
専任媒介契約・専属専任媒介契約では、レインズへの登録義務がある。登録後は「登録証明書(登録確認書)」が発行される。これが渡されない、もしくは「後で渡します」と言われ続ける場合は要注意だ。
第二のサインは、問い合わせ件数が不自然に少ないことだ。
他社からの問い合わせがあったか確認すると、「今商談中なので紹介できません」と言われ続けるケースがある。
第三のサインは、内覧希望者が極端に少ないことだ。
第四のサインは、価格を下げる提案が早すぎることだ。
第五のサインは、レインズの「取引状況」を確認したときに「公開中」になっていないことだ。
専属専任媒介契約と専任媒介契約を締結した物件の登録証明書には、売却依頼主(売主)向けのIDとパスワードが記載されており、売主はインターネット上の専用確認画面で売却を依頼した物件のレインズ登録内容や取引の現状を確認できる。
囲い込みを防ぐ3つの実践的対策
囲い込みを防ぐための最も確実な方法は、一般媒介契約を選ぶことだ。
一般媒介で複数の会社に仲介を依頼することが囲い込み防止策になる。
ただし、一般媒介にはデメリットもある。
不動産会社にとって一般媒介契約は、売却活動をしていても成約に至らなければ仲介手数料はゼロだ。専任媒介契約であれば少なくとも売主からの仲介手数料は受け取れるため、社内において優先される傾向がある。
第二の対策は、レインズの登録確認を徹底することだ。
専任媒介・専属専任を選ぶなら、登録証明書のIDとパスワードを使って、必ず自分で登録状況を確認せよ。
第三の対策は、媒介契約締結時に「囲い込みをしない」という明確な確約を取ることだ。
ある大手仲介会社では、顧客からの囲い込み確認の電話が増えたことで、社内の意識が変わったという。
物件特性で選べ──一般媒介が有利な物件、専任が有利な物件
媒介契約の選択は、あなたの物件の「市場性」で決まる。
駅近物件や人気エリアにある物件など、早期に成約が望めそうな物件以外は、一般媒介を選ぶことがマイナスになるケースも多い。
人気エリアの希少物件であれば、一般媒介で複数社に競わせるのが有利だ。
なぜなら、その物件を売りたい不動産会社が自然と集まるからだ。
一方、売却に時間がかかりそうな物件──築古、駅から遠い、需要が限られるエリアなど──は、専任媒介で1社に任せたほうが、腰を据えた販売活動を期待できる。
専任媒介契約では、不動産会社からのきめ細かい対応や、積極的な営業活動を期待できることがメリットだ。
「自己発見取引」の可能性──専任と専属専任の決定的な違い
専任媒介と専属専任媒介の最大の違いは、「自己発見取引」が認められるか否かだ。
専属専任媒介契約の最大の特徴は、売主自身が物件の買主を見つけても、契約を結んだ不動産会社を介さずに売却できない点だ。「売主が、知人や親戚、同じマンションの住人などに売却の話をすることで、ご自分で買主を見つけるケースが時々ある。このようなときでも、専属専任契約を結んだ不動産会社には、仲介手数料を支払う必要がある。」
あなたの周囲に、物件を買ってくれそうな知人や親戚がいるなら、専任媒介を選ぶべきだ。
専属専任を選ぶのは、完全に不動産会社に任せたい場合に限られる。
契約期間3か月を「交渉カード」として使う方法
媒介契約の3か月という期間は、売主にとって強力な交渉カードになる。
契約締結前に、営業マンにこう伝えよ。
「3か月で成果が出なければ、更新しません。最初の1か月で何をしてくれますか?」
具体的な販売計画を引き出せないなら、その会社には任せるべきではない。
ある大手仲介会社の現役営業マンは、こう証言する。
「3か月後に更新されないと明言する売主は、正直言って手を抜けない。逆に、何も言わない売主の物件は後回しになりやすい」
行動経済学でいう「コミットメントと一貫性の法則」を活用せよ。
人は、一度口に出した約束を守ろうとする傾向がある。
営業マンに具体的な行動を約束させれば、その約束は守られやすくなる。
途中解約という選択肢──本当に「違約金」は発生するのか
専任媒介契約も専属専任媒介契約も契約期間が定められており、期間内での中途解約は原則として認められていない。ただし、一定の要件を満たす場合には、期間中であっても契約解除が可能だ。
宅地建物取引業法(宅建業法)第34条の2・3項において、専任媒介契約および専属専任媒介契約は、3か月を上限に契約期間(有効期間)を定めることができるとされている。
では、不動産会社が義務を果たしていない場合はどうか。
レインズ登録の遅延、報告義務の不履行、囲い込みの発覚──これらは不動産会社側の契約違反だ。
この場合、売主は正当な理由により解約を申し出ることができる。
専任媒介契約は3か月の契約期間中に解約することができる。解約の申し出は依頼者が宅地建物取引業者へ書面での通達、もしくは電話で連絡し解約することもできる。ただし、契約を締結した日から、解約の合意が取れた日までに宅地建物取引業者が費やした営業経費を支払わなくていけない。
しかし、不動産会社に落ち度がある場合は、この費用請求も認められない可能性が高い。
最適な媒介契約を見極める5つの質問
あなたが媒介契約を選ぶ前に、自分自身に問いかけるべき5つの質問がある。
第一に、あなたの物件は人気エリアの希少物件か?
第二に、売却を急いでいるか、時間的余裕があるか?
第三に、自分で買主を見つける可能性はあるか?
第四に、複数の不動産会社とのやり取りを管理できる時間と労力があるか?
第五に、信頼できる不動産会社・営業マンにすでに出会えているか?
これらの質問に対する答えによって、最適な媒介契約は変わる。
人気エリアの物件で、時間に余裕があり、複数社を管理できるなら、一般媒介が有利だ。
売却に時間がかかりそうで、信頼できる1社に任せたいなら、専任媒介を選べ。
自分で買主を見つける可能性がゼロで、完全に任せたいなら、専属専任も選択肢に入る。
編集部まとめ
媒介契約は、不動産売却の「入口」であり、この選択が売却全体の成否を左右する。
一般媒介・専任媒介・専属専任媒介の3種類には、それぞれ明確なメリットとデメリットがある。
物件の市場性、あなたの時間的余裕、信頼できる不動産会社との出会い──これらの条件によって、最適解は変わる。
囲い込みが行政処分対象となった2026年の今、売主の「知識武装」は以前にも増して重要だ。
3か月という契約期間を交渉カードとして活用し、レインズ登録の確認を怠らず、報告義務の履行を厳しくチェックせよ。
これを知っていれば、あなたは不動産会社の都合ではなく、自分の利益を最優先にした売却を実現できる。
媒介契約の本質を理解することが、マンション売却成功への第一歩だ。
執筆:マンション売却ジャーナル編集部




