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マンション売却における「囲い込み」の実態と回避策──仲介会社の利益相反構造を理解し、物件情報を最大限に流通させるための実践的対策

  • 6月11日
  • 読了時間: 12分

  あなたの物件は、本当に市場に出ているか


 マンション売却を仲介会社に依頼したあなたは、こう信じているはずだ。

「不動産ポータルサイトに掲載されている」「レインズに登録された」「だから、全国の購入希望者に情報が届いている」と。

しかし、その認識は甘い。

物件情報がレインズに登録されていても、他社からの問い合わせに対して「商談中です」「売主の都合で案内できません」と回答されている可能性がある。

これが業界で「囲い込み」と呼ばれる行為だ。

国土交通省が2016年に実施した調査では、囲い込みの疑いがある行為が確認された事例が複数報告されている。


 現役営業マンの証言では「囲い込みは業界の常識」「やらない会社のほうが珍しい」という声すら存在する。

あなたが3,000万円で売れるはずの物件を、2,800万円で手放すことになるかもしれない。

あなたが2か月で成約できるはずの物件が、6か月も売れ残ることになるかもしれない。

囲い込みとは何か、なぜ起きるのか、どう見抜き、どう防ぐのか。

売主として知っておくべき構造と対策を、業界の内側から解説する。



  囲い込みとは何か──両手仲介を狙う不動産会社の合理的行動


 囲い込みの定義は単純だ。

売主から売却を依頼された仲介会社が、他の仲介会社からの購入希望者の紹介を意図的に排除する行為である。

なぜこのような行為が行われるのか。

答えは「両手仲介」にある。

不動産仲介の報酬体系を理解すれば、囲い込みが不動産会社にとって「合理的な行動」であることがわかる。

売買価格が3,000万円のマンションを例に取る。

仲介手数料の上限は「売買価格×3%+6万円+消費税」だ。

3,000万円の物件であれば、片側から受け取れる手数料は約105万円となる。

売主側のみを担当する「片手仲介」であれば、仲介会社の収入は105万円だ。


 しかし、買主も自社で見つけて「両手仲介」を成立させれば、収入は倍の210万円になる。

同じ1件の成約で、報酬が2倍になる。

これが囲い込みを誘発する構造的な要因だ。

スーパーマーケットに例えればわかりやすい。

あなたが出品した商品を、店員が他店の買い物客には「売り切れです」と伝え、自店の常連客だけに売ろうとしている状態だ。

他店の客が2割高い価格で買おうとしても、店員は「もう売れました」と断る。

なぜか。

自店の常連客に売れば、その店員には別のインセンティブがつくからだ。

売主であるあなたの利益と、仲介会社の利益は、構造的に相反している。



  囲い込みが発生するメカニズム──レインズの限界と現場の実態


 「レインズに登録されているから大丈夫」という認識は危険だ。

レインズ(Real Estate Information Network System)は、国土交通大臣指定の不動産流通機構が運営するデータベースである。

専任媒介契約・専属専任媒介契約を結んだ場合、仲介会社には法律でレインズ登録が義務付けられている。

専任媒介は7営業日以内、専属専任媒介は5営業日以内の登録が必要だ。

しかし、レインズに登録することと、他社からの紹介を受け入れることは別の問題だ。

現役営業マンの証言では、囲い込みの手口は多岐にわたる。

「商談中です」──最も多用されるフレーズだ。

他社から「この物件を紹介したい」と連絡があったとき、「すでに商談が入っています」と回答する。

実際には商談など存在しない。

「売主の都合で案内できません」──これも常套句だ。

売主に確認もせず、勝手に案内不可と回答する。

「週末は売主不在のため」「今月は売主が体調不良で」──言い訳は無限に作れる。

「書類の準備中です」──内覧の申し込みを先延ばしにする手口だ。

購入希望者の熱が冷めるまで時間を稼ぐ。

ある大手仲介会社では、他社からの問い合わせに対する「断り文句マニュアル」が存在していたという証言もある。

レインズのシステム上、物件情報の公開と問い合わせ対応は別のレイヤーにある。

登録義務を果たしながら、実質的に情報流通を遮断することは技術的に可能なのだ。



  利益相反の心理学──コミットメントと一貫性の法則が生む構造的バイアス


 囲い込みは、個々の営業マンの悪意だけで説明できない。

組織構造と人間心理が複合的に作用している。

心理学者ロバート・チャルディーニが提唱した「コミットメントと一貫性の法則」がここで機能する。

人は一度コミットした立場を維持しようとする強い心理的傾向を持つ。

営業マンは、売主から物件を「預かった」瞬間にコミットメントが発生する。

「この物件は自分が責任を持って売る」という意識が芽生える。

このコミットメントは、本来は良いことだ。

しかし、それが「自分の手で成約させなければならない」という強迫観念に変質する。

他社が買主を見つけることは、自分のコミットメントを否定されることと同義になる。

加えて、多くの仲介会社では両手仲介に対するインセンティブが設定されている。

両手成約時の歩合率が片手より高い会社は珍しくない。

営業マン個人の経済合理性も、囲い込みを後押しする。


 さらに「損失回避バイアス」も作用する。

行動経済学者ダニエル・カーネマンの研究によれば、人は同額の利益より損失を約2倍重く感じる。

営業マンにとって、他社に成約を持っていかれることは「損失」だ。

売主にとっては「より高い価格での成約機会」でも、営業マンにとっては「自分の報酬の損失」なのだ。

この認知のズレが、囲い込みを正当化する心理的基盤となる。



  囲い込みの被害実態──売却期間の長期化と成約価格の低下


 囲い込みによる被害は、数字として現れる。

東日本不動産流通機構(東日本レインズ)の統計によれば、中古マンションの平均成約日数は約3か月だ。

しかし、囲い込み被害を受けた物件は、6か月、9か月と売却期間が延びる傾向がある。

なぜか。

市場に存在する購入希望者のうち、仲介会社が抱える顧客は一部に過ぎない。

ある大手仲介会社のシェアが首都圏で10%程度だとすれば、残り90%の購入希望者はリーチできていない。

囲い込みは、その10%の顧客だけを相手に売却活動を行うことを意味する。

当然、成約の確率は下がり、期間は延びる。


図1|囲い込みによる購入者層リーチ率の変化(編集部作成)

売却期間が延びれば、価格にも影響が出る。

不動産市場には「鮮度」という概念がある。

新規登録から時間が経過した物件は、購入希望者の目には「売れ残り」と映る。

「何か問題があるのではないか」という疑念が生じる。

結果として、値下げ交渉が厳しくなり、成約価格が下がる。

囲い込みによる被害は、売主には見えにくい形で発生している。

「問い合わせが少ないのは物件のせい」「価格が高すぎるのでは」と思わされる。

しかし実際には、問い合わせ自体が遮断されていた可能性がある。



  囲い込みを見抜く5つの兆候


 囲い込みは巧妙に隠される。

しかし、いくつかの兆候から見抜くことは可能だ。

第一の兆候は、内覧件数の極端な少なさだ。

相場価格で売り出しているにもかかわらず、1か月に1件も内覧がない場合は要注意だ。

東京23区の中古マンションであれば、適正価格なら週に1〜2件の内覧があっても不思議ではない。

第二の兆候は、他社購入希望者の紹介がゼロであることだ。

活動報告書を見ても、自社顧客の内覧ばかりで他社からの紹介が一切ない場合は疑うべきだ。

第三の兆候は、レインズ登録証明書のステータスだ。

専任媒介・専属専任媒介の場合、売主はレインズ登録証明書を受け取る権利がある。

この証明書に記載されているIDで、自らレインズに登録状況を確認できる。

「公開中」ではなく「紹介停止中」「一時紹介停止」などの表示があれば、囲い込みの疑いがある。

第四の兆候は、値下げ提案の早さだ。

売り出し開始から2週間程度で「価格を下げましょう」と提案してくる場合は注意が必要だ。

両手仲介で安く成約させるほうが、片手仲介で高く売るより会社の利益になるからだ。

第五の兆候は、活動報告の曖昧さだ。

「広告を出しました」「ポータルサイトに掲載しました」といった報告ばかりで、「他社からこういう問い合わせがありました」という具体的な報告がない場合は疑問を持つべきだ。



  囲い込みを確認するための具体的アクション


 疑いを確信に変えるには、能動的な行動が必要だ。

最も効果的な方法は「おとり電話」だ。

友人や知人に頼んで、購入希望者を装い、他社の営業マンから自分の物件について問い合わせてもらう。

「◯◯マンションの◯◯号室のご案内は、まだできますか?」と聞く。

「商談中です」「案内できません」と言われたら、囲い込みの証拠となる。

売主であるあなた自身には、「見学可能です」と報告されているはずだからだ。


 レインズの確認も重要だ。

専任媒介・専属専任媒介契約の場合、仲介会社はレインズ登録証明書を売主に交付する義務がある。

この証明書に記載された確認用IDとパスワードで、レインズの物件情報を自ら確認できる。

2016年1月から導入された「取引状況」欄を確認する。

「公開中」であれば正常だ。

「書面による購入申込みあり」「売主都合で一時紹介停止中」となっていれば、その理由を仲介会社に問いただすべきだ。

活動報告書の精査も欠かせない。

専属専任媒介は週1回、専任媒介は2週に1回、文書による報告義務がある。

報告書には、広告実施状況、問い合わせ件数、内覧件数、他社からの紹介状況が記載されるべきだ。

これらの項目について、具体的な数字を求める。

「反響は◯件、うち他社経由◯件、内覧予約◯件」という形式で報告させる。



  囲い込みを防ぐための契約段階での対策


 最大の防御は、契約段階での明確な意思表示だ。

媒介契約を結ぶ際に、以下の3点を書面で確認する。

第一に、「両手仲介・片手仲介を問わず、最も良い条件での成約を目指す」という文言を契約書または確認書に盛り込む。

口頭の約束は証拠にならない。

第二に、「他社からの問い合わせにはすべて売主に報告する」ことを約束させる。

他社からの購入希望者情報を隠さないという確約だ。

第三に、「レインズの取引状況を売主都合で変更しない」ことを確認する。

売主の指示なく「紹介停止」にしない約束だ。

これらの要求に対して難色を示す仲介会社は、その時点で選択肢から外すべきだ。

一般媒介契約という選択肢も検討に値する。

一般媒介は複数の仲介会社に同時に売却を依頼できる契約形態だ。

囲い込みのインセンティブは低下する。

なぜなら、他社に先を越されるリスクがあるからだ。

ただし、一般媒介にはデメリットもある。

レインズ登録義務がない点、各社の販売活動が分散する点だ。

物件の立地や希少性によって、最適な契約形態は異なる。



  囲い込みが発覚した場合の対処法


 囲い込みが確認された場合、売主には法的な選択肢がある。

最初のステップは、仲介会社への書面による抗議だ。

口頭での抗議は「言った言わない」になる。

内容証明郵便で「囲い込み行為の疑いがある。事実確認と改善を求める」と通知する。

改善が見られない場合、媒介契約の解除を検討する。

専任媒介・専属専任媒介であっても、仲介会社側の義務違反があれば契約解除は可能だ。

宅地建物取引業法では、媒介契約に基づく業務を誠実に遂行する義務が定められている。

囲い込みは明らかな義務違反だ。

さらに深刻な場合は、宅地建物取引業法に基づく行政処分を求めることもできる。

各都道府県の宅地建物取引業法所管課、または国土交通省地方整備局に相談する。

行政指導、業務停止命令、免許取消しなどの処分が行われる可能性がある。

ただし、囲い込みの証明は容易ではない。

「おとり電話」の録音、レインズのステータス変更履歴、活動報告書との矛盾など、証拠を積み重ねる必要がある。



  仲介会社選びの段階で囲い込みリスクを下げる


 そもそも囲い込みをしない仲介会社を選ぶことが最善の策だ。

いくつかの判断基準がある。

両手仲介比率を質問する。

「御社の成約のうち、両手仲介の割合はどのくらいですか」と直接聞く。

80%を超えるような回答があれば、囲い込みの可能性を疑うべきだ。

健全な仲介会社であれば、40〜60%程度が一般的だ。

営業マンのインセンティブ体系も確認する。

「両手仲介と片手仲介で、営業マンへのインセンティブに差はありますか」と聞く。

差がないと明言する会社は、囲い込みの動機が弱い。

「他社からの紹介をどう扱いますか」と具体的に質問する。

「他社の買主でも積極的に受け入れる」「片手でも成約を目指す」と明言するかどうかを確認する。

曖昧な回答は危険信号だ。

過去の売却実績について、両手・片手の内訳を聞くことも有効だ。

具体的な数字を示せない会社は避ける。



  業界構造の変化──テクノロジーと透明性の向上


 囲い込み問題は、業界全体で認識されつつある。

2016年、レインズに「取引状況」欄が新設された。

売主が直接、物件の公開状況を確認できるようになった。

これは囲い込み対策の第一歩だ。

2024年には、レインズの機能がさらに強化された。

物件の閲覧履歴や問い合わせ履歴を売主が確認できる仕組みの検討も進んでいる。

不動産テック企業の台頭も変化を促している。

オンライン査定サービス、物件情報の直接公開、売主と買主のマッチングプラットフォームなど、従来の仲介モデルを迂回するサービスが増えている。

これらのサービスは、囲い込みの余地を構造的に狭める。

ただし、業界構造の完全な変革には時間がかかる。

現時点では、売主自身が知識を持ち、能動的に行動することが最大の防御となる。



  売主の権利と責任──情報の非対称性を埋める努力


 不動産取引における情報の非対称性は大きい。

仲介会社は毎日取引を行う。

売主は一生に数回しか経験しない。

この経験値の差が、売主を不利な立場に置く。

しかし、知識で差を埋めることは可能だ。

レインズの仕組みを理解する。

両手仲介・片手仲介の違いを把握する。

仲介会社のインセンティブ構造を認識する。

これらの知識があれば、囲い込みのリスクは大幅に下げられる。

売主は「お客様」であると同時に「取引の当事者」だ。

仲介会社に任せきりにしない姿勢が求められる。

定期的に活動状況を確認する。

疑問があれば質問する。

おかしいと感じたら声を上げる。

この能動性が、囲い込み被害を防ぐ最大の武器となる。



編集部まとめ


囲い込みは、不動産業界の構造的問題だ。

両手仲介による報酬倍増というインセンティブがある限り、完全になくすことは難しい。

しかし、売主が知識を持ち、適切な対策を講じれば、被害は回避できる。

契約段階で明確な確認をする。

活動報告を精査する。

レインズの状況を自ら確認する。

疑いがあれば「おとり電話」で検証する。

これらの行動が、あなたの物件を最大限の価格で、最短の期間で売却することにつながる。

囲い込みの構造を理解した売主は、仲介会社と対等な立場で交渉できる。

それが、マンション売却を成功させる第一歩だ。

執筆:マンション売却ジャーナル編集部


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