築45年マンションを相場以上で売却──リフォーム判断・買取業者交渉・住み替えローン活用の実践記録
- 5月18日
- 読了時間: 11分
「築45年は売れない」という思い込みが、あなたの資産を毀損している
築45年のマンションを売ろうとしたとき、不動産会社から「この築年数では厳しいですね」と言われた経験はないだろうか。
あるいは「リフォームしないと売れません」「買取業者に出すしかありません」と、選択肢を狭められたことはないだろうか。
結論から言う。
築45年のマンションでも、相場以上で売却することは可能である。
本記事で紹介するのは、2024年に首都圏郊外で築45年・70㎡のマンションを売却した60代夫婦の実践記録だ。
当初、複数の仲介会社から提示された査定額は1,200万円から1,500万円。
最終的な成約価格は1,780万円。
査定額の上限を18%上回る金額で売却に成功した。
この事例から抽出できるのは、築古マンション売却における三つの戦略的判断だ。
リフォームの要否判断、買取業者との交渉術、そして住み替えローンの活用法である。
売主プロフィールと物件概要──なぜ「売れない」と言われたのか
売主は神奈川県某市在住の60代夫婦。
築45年・専有面積70㎡・3LDK・5階建ての4階部分に居住していた。
最寄り駅から徒歩12分、都心までの通勤時間は約50分という立地である。
売却理由は、夫の定年退職を機にした地方への住み替え。
子どもたちは独立し、夫婦二人には広すぎる住戸を処分し、夫の実家近くに新居を構える計画だった。
物件の状態は、築年数相応の経年劣化が見られた。
水回りは20年前にリフォーム済みだったが、壁紙の黄ばみや床の傷は目立つ状態。
管理組合は機能しており、大規模修繕は過去に2回実施済み。
修繕積立金の残高も適正水準を維持していた。
問題は、最初に相談した仲介会社3社の反応だった。
A社は「築45年は住宅ローンがつきにくい。現金購入者を探すしかない」と査定額1,200万円を提示。
B社は「リフォームに300万円かければ1,600万円で売れる可能性がある」と査定額1,300万円を提示。
C社は「買取業者に1,100万円で売るのが確実」と買取を勧めてきた。
いずれも、売主の希望価格1,700万円には遠く及ばなかった。
アンカリング効果の罠──最初の査定額が売却価格を決めてしまう心理構造
ここで理解すべきは、不動産売却における「アンカリング効果」の危険性だ。
アンカリング効果とは、最初に提示された数字が基準点(アンカー)となり、その後の判断がすべてその数字に引きずられる心理現象を指す。
行動経済学者のダニエル・カーネマンが実証した認知バイアスである。
売主が最初に1,200万円という査定額を見せられると、脳は無意識にその数字を「適正価格の基準」として記憶する。
その後、1,500万円の査定額を見ても「300万円も高い」と感じてしまう。
本来なら1,700万円が適正かもしれないにもかかわらず、最初の低い数字に縛られてしまうのだ。
この夫婦が賢明だったのは、最初の3社の査定額を「仲介会社の都合が反映された数字」と認識し、鵜呑みにしなかったことだ。
スーパーで「通常価格980円→特売498円」と書かれていれば、498円が安く感じる。
しかし、その「通常価格980円」自体が作られた数字かもしれない。
不動産査定額も同じ構造を持つ。
仲介会社は「確実に売れる価格」を提示することで、自社の契約成立確率を高めようとする。
売主の利益最大化より、自社の回転率を優先するインセンティブが働いているのだ。
リフォーム判断の分岐点──「やるべきリフォーム」と「やってはいけないリフォーム」
B社から「300万円のリフォームで1,600万円」と言われた夫婦は、この提案を精査することにした。
リフォームの内訳は以下の通りだった。
壁紙全面張り替え:50万円。
フローリング全面張り替え:80万円。
キッチン交換:100万円。
洗面台・トイレ交換:40万円。
その他諸経費:30万円。
合計300万円の投資で、売却価格が300万円上がる計算。
一見すると損はない提案に見える。
しかし、ここに落とし穴がある。
築古マンションの購入者層を考えてほしい。
築45年のマンションを買う人は、大きく二つのタイプに分かれる。
一つは「安く買って自分好みにリノベーションしたい」層。
もう一つは「とにかく安く住みたい」層だ。
前者にとって、売主が行った中途半端なリフォームは邪魔でしかない。
自分でフルリノベーションするつもりなのに、新しいキッチンを撤去する費用が余計にかかる。
後者にとっては、リフォーム分が上乗せされた価格は予算オーバーになる。
つまり、売主負担のリフォームは「どちらの層にも刺さらない」リスクを孕んでいる。
夫婦が選んだのは「必要最小限のリフォーム」だった。
具体的には、壁紙の部分張り替え(特に汚れが目立つLDKと玄関のみ)で15万円。
ハウスクリーニング(プロによる徹底清掃)で8万円。
合計23万円。
この判断の根拠は明確だ。
「清潔感」は内覧者の第一印象を決める。
しかし「設備の新しさ」は、購入者が自分で選びたい領域である。
リフォーム費用対効果を考えるとき、「清潔感の演出」と「設備の刷新」は分けて考えなければならない。
買取業者との交渉術──「即決しない」が最大の武器になる
C社から勧められた買取業者への売却を、夫婦は一度は断った。
しかし、完全に選択肢から外したわけではない。
買取業者を「交渉カード」として手元に残したのだ。
買取業者のビジネスモデルを理解しておく必要がある。
買取業者は、相場より安くマンションを仕入れ、リノベーション後に再販売して利益を得る。
仕入れ価格は「再販売価格の70%前後」が業界の相場だ。
1,700万円で再販売できる物件なら、1,190万円で買い取るのが標準的な計算になる。
C社が提示した1,100万円は、この相場に沿った金額だった。
夫婦は、買取業者3社から見積もりを取った。
D社:1,100万円。
E社:1,180万円。
F社:1,250万円。
F社が高かった理由は、同社が近隣で複数のリノベーション再販実績を持ち、販売ルートを確保していたからだ。
買取業者間でも、物件の「仕入れやすさ」によって価格差が生じる。
夫婦がとった戦略は、このF社の1,250万円を「最低売却価格」として設定することだった。
仲介で売れなければ、いつでも1,250万円で売れる。
この保険があることで、仲介での強気の価格設定が可能になった。
心理学でいう「BATNA(Best Alternative to a Negotiated Agreement:交渉が決裂した場合の最善の代替案)」の確保である。
交渉学の基本中の基本だが、不動産売却で意識している売主は少ない。
仲介会社の選び直し──「築古を売る気がある会社」を見極める
最初の3社の対応に疑問を感じた夫婦は、4社目の仲介会社を探した。
ここで重視したのは「築古マンションの売却実績」だ。
地域密着型の中堅仲介会社G社は、過去3年間で築40年以上のマンションを17件成約させていた。
同社の担当者は、最初の面談で明確に言い切った。
「築45年でも、管理状態が良ければ住宅ローンは通ります。当社では〇〇銀行と△△信用金庫に築古物件の融資実績があります」
この一言で、夫婦はG社に決めた。
築古マンションの売却において、住宅ローンの可否は成約率を左右する最大要因だ。
金融機関によって、築年数に対する融資姿勢は大きく異なる。
大手銀行は「築年数+融資期間≦50年」などの縛りを設けることが多い。
一方、地域密着の信用金庫やネット銀行の中には、物件の管理状態を重視し、築年数に柔軟な機関もある。
G社は、これらの金融機関とのパイプを持っていた。
具体的には、購入希望者が現れた際に「この物件で融資が通る金融機関」を即座に紹介できる体制を整えていたのだ。
売り出し価格の設定──「高すぎず、安すぎず」の黄金比率
G社との媒介契約後、売り出し価格の設定に入った。
G社の査定額は1,550万円。
夫婦の希望は1,700万円。
買取業者F社の提示額は1,250万円。
最終的に設定した売り出し価格は1,880万円だった。
この数字の根拠を説明する。
不動産売却における価格交渉の余地は、一般的に売り出し価格の5〜10%とされる。
1,700万円で売りたいなら、1,780万円〜1,890万円で売り出すのが定石だ。
1,880万円という設定は、10%の値引き交渉に応じても1,692万円で着地できる計算になる。
ただし、高すぎる売り出し価格には副作用がある。
「長期間売れ残っている物件」というレッテルが貼られると、購入検討者は「何か問題があるのでは」と警戒する。
G社との合意は「3ヶ月で反響がなければ1,780万円に改定、さらに2ヶ月で反響がなければ1,680万円に改定」という段階的な価格戦略だった。
内覧対応の実践──築古の弱点を逆手に取る見せ方
売り出し開始から2週間後、最初の内覧希望が入った。
購入検討者は30代後半の夫婦。
リノベーション前提で築古マンションを探していた。
夫婦が内覧対応で意識したのは「隠さない、言い訳しない」という姿勢だ。
築45年の物件には、新築にはない「味」がある。
窓枠の造作、廊下の幅、天井高。
1970年代後半から80年代前半に建てられたマンションは、現在の新築より専有面積あたりの空間にゆとりがあることが多い。
夫婦は、これらのポイントを購入検討者に伝えた。
「天井高は2.5mあります。最近のマンションより10cm高いんです」
「この梁の出方、今のマンションにはない味がありますよね」
同時に、管理組合の議事録、大規模修繕の履歴、修繕積立金の推移表も用意した。
築古マンションの最大の不安は「管理状態」と「将来の修繕費負担」だ。
これらを先回りして開示することで、購入検討者の不安を払拭した。
内覧後、この30代夫婦から1,750万円での購入申し込みが入った。
価格交渉の駆け引き──「即答しない」が価値を守る
1,750万円の申し込みに対し、夫婦は即答しなかった。
「検討させてください。週末までにお返事します」
この「間」が重要だ。
即答で値下げを受け入れると、購入検討者は「もっと下げられたのでは」と感じる。
コミットメントと一貫性の法則により、人は自分の決定に後悔したくない心理が働く。
すぐに値下げに応じる売主は、購入者に「この物件は価値が低いのかもしれない」というシグナルを送ってしまう。
夫婦は3日後、G社を通じて回答した。
「1,780万円でいかがでしょうか。この価格であれば、来週中に契約できます」
売り出し価格1,880万円から100万円の譲歩。
しかし、申し込み価格1,750万円からは30万円の上乗せ。
購入検討者は、この提案を受け入れた。
ただし、東京など大都市圏の場合、競合する物件が多いため、時間をかけて返答する事によって、他の物件に流れてしまう場合がある。その様な場合は即答してすぐに話を決めるのも重要だ。そこで後悔したくない心理をが働かない様に交換条件を提案することで安易に価格交渉に応じたと捉えられくする手法もある。
住み替えローンの活用──売却と購入を同時に進める技術
売却契約が成立した後、夫婦は住み替え先の購入に動いた。
ここで活用したのが「住み替えローン」だ。
住み替えローンとは、現在の住宅ローン残債と新居の購入資金を一本化して借り入れる仕組み。
夫婦の場合、旧居のローンは完済していたが、新居の購入資金として1,200万円の融資を受けた。
住み替えローンの審査では、売却契約書が必要になる。
つまり、売却を先に確定させなければ、新居の購入資金を調達できない。
この順序を間違えると、住み替えは頓挫する。
夫婦が取ったスケジュールは以下の通りだ。
4月:売却媒介契約締結。
5月:内覧対応・価格交渉。
6月上旬:売買契約締結。
6月中旬:住み替えローン審査申込。
7月:住み替えローン審査通過・新居購入契約。
8月:旧居引き渡し・新居入居。
売却から購入まで4ヶ月。
この間、夫婦は仮住まいを必要としなかった。
引き渡し日と新居入居日を調整し、直接住み替えを実現したのだ。
最終収支──当初査定額との差額318万円の内訳
売却の最終収支を整理する。
成約価格:1,780万円。
仲介手数料:約65万円(1,780万円×3%+6万円+消費税)。
リフォーム費用:23万円。
その他費用(登記費用・印紙代等):約12万円。
手取り額:約1,680万円。
最初の査定額1,200万円で売却していた場合の手取り額は、仲介手数料約46万円を差し引いて約1,154万円。
実際の手取り額との差額は526万円。
買取業者F社の1,250万円で売却していた場合は、仲介手数料がかからないため手取り額は約1,238万円(登記費用等を差し引いた概算)。
実際の手取り額との差額は442万円。
いずれのシナリオと比較しても、数百万円単位の差が生じている。
この事例から抽出できる三つの教訓
第一に、査定額を鵜呑みにしない。
複数社の査定を取り、その「根拠」を問う。
根拠を説明できない仲介会社は、自社都合で価格を設定している可能性が高い。
第二に、リフォームは「清潔感」に絞る。
設備の刷新は購入者に委ねる。
築古マンションの購入者は「自分でカスタマイズしたい」層が多いことを忘れてはならない。
第三に、買取業者の見積もりをBATNAとして確保する。
「最悪でもこの金額で売れる」という安全網があれば、仲介での強気の価格設定が可能になる。
編集部まとめ
築45年のマンションは「売れない」のではない。
「売れないと思い込まされている」だけだ。
本記事で紹介した夫婦は、最初の査定額から580万円高い金額で売却に成功した。
その差を生んだのは、特別なテクニックではない。
査定額を疑い、リフォームの要否を冷静に判断し、買取業者を交渉カードとして活用し、築古に強い仲介会社を選んだ。
すべて、売主が「知っているかどうか」で決まる領域だ。
築古マンションの売却を検討している読者は、まず複数の仲介会社と買取業者から見積もりを取ることから始めてほしい。
その数字の「根拠」を問い、自分の物件の本当の価値を見極める。
これが、築古マンションを相場以上で売却する第一歩である。
執筆:マンション売却ジャーナル編集部
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