2025年マンション市場「在庫急増」の実態──首都圏・近畿圏・中部圏の販売中物件が過去最高水準に達した構造的要因と、売り手が認識すべき市場均衡点の変化
- 6 日前
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あなたの物件が「売れない」のではない。市場が「買い手優位」に転換したのだ
あなたはまだ「高く売れる」と思っていないか。
2025年、マンション市場は決定的な転換点を迎えた。
首都圏・近畿圏・中部圏の三大都市圏で、販売中の中古マンション在庫が過去最高水準に達している。
東日本レインズの公表データによれば、首都圏の中古マンション在庫件数は2025年4月時点で4万9000件を超えた。
これは2019年の水準を大幅に上回り、コロナ禍前の「売り手市場」とは完全に異なる局面である。
近畿圏でも同様の傾向が顕著だ。
近畿レインズのデータでは、大阪・神戸・京都を中心に在庫が積み上がり、成約までの平均日数が長期化している。
中部圏においても、名古屋市を中心に在庫の滞留が目立ち始めた。
この現象を「一時的な調整」と見るのは危険である。
構造的な変化が起きているのだ。
「アンカリング効果」が売り手の判断を狂わせる
なぜ在庫が積み上がるのか。
答えは単純だ。
売り手が「過去の高値」に縛られているからである。
行動経済学で「アンカリング効果」と呼ばれる心理バイアスが、売り手の価格設定を狂わせている。
2022年から2023年にかけて、都心部のマンション価格は異常な上昇を見せた。
この「記憶」が売り手の脳内に刻み込まれ、いまだに「あのとき隣の部屋が○○万円で売れた」という基準で値付けをしている。
しかし市場は変わった。
日銀の追加利上げにより住宅ローン金利は上昇し、実需層の購買力は確実に低下している。
変動金利は0.5%を超え、一部の金融機関では0.7%台に達した。
2024年までの「超低金利環境」を前提とした価格設定は、もはや市場に受け入れられない。
売り手がアンカリングに囚われている間に、在庫は増え続ける。
これが「在庫急増」の心理的メカニズムだ。
スーパーの特売コーナーで考えれば分かる「需給均衡」の本質
マンション市場の需給バランスを、スーパーの惣菜コーナーに置き換えて考えてみよう。
閉店間際のスーパーで、惣菜が山積みになっている光景を思い浮かべてほしい。
店側は「うちの惣菜は品質がいいから」と定価で売り続ける。
客は「半額シールが貼られるまで待とう」と様子を見る。
結果、惣菜は売れ残り、廃棄されるか、最終的に大幅値引きで処分される。
いま、マンション市場で起きているのはまさにこの状況だ。
売り手は「うちのマンションは立地がいいから」と強気の価格を維持する。
買い手は「もう少し待てば下がるかもしれない」と購入を見送る。
その結果、在庫が積み上がり、市場全体の流動性が低下する。
惣菜と違い、マンションには「消費期限」がないと思うかもしれない。
しかし「鮮度」は確実に落ちる。
ポータルサイトに長期間掲載され続けた物件は、買い手から「売れ残り」と見なされる。
「この物件、3ヶ月前から見てるけどまだ売れてない」という認識が広まれば、値引き交渉の材料にされる。
在庫の長期化は、それ自体が価格下落圧力となるのだ。
首都圏在庫4万9000件の内訳──「郊外」と「築古」に集中する滞留
首都圏の在庫急増を、もう少し詳しく見てみよう。
東日本レインズのデータを分析すると、在庫の偏りが明確に浮かび上がる。
都心6区(千代田・中央・港・新宿・渋谷・文京)では、在庫増加は比較的緩やかだ。
一方、城東・城北エリアや神奈川・埼玉・千葉の郊外部では、在庫が急激に積み上がっている。
特に顕著なのは、築20年超の物件だ。
新耐震基準適合であっても、設備の陳腐化や大規模修繕の問題を抱える物件は、買い手の検討リストから外されやすい。
駅徒歩10分超の物件も厳しい。
在宅勤務の定着で「駅近」の重要性は相対的に低下したと言われるが、実際の取引データは逆を示している。
駅徒歩5分以内の物件と10分超の物件では、成約までの日数に2倍以上の開きがある。
「郊外×築古×駅遠」という三重苦を抱えた物件が、在庫の山を形成している。
これは東京だけの話ではない。
大阪・名古屋でも同様のパターンが確認されている。
近畿圏・中部圏でも「在庫急増」は同時進行している
首都圏だけが特殊なのではない。
近畿圏では、大阪市内のタワーマンションですら在庫の滞留が見られる。
梅田・難波・天王寺といった主要ターミナル駅周辺でも、2024年と比較して在庫が1.3倍に増加した。
神戸市・京都市では、さらに深刻な状況だ。
特に京都市内は、投資用物件の売り急ぎが目立つ。
インバウンド需要を当て込んで購入された民泊向け物件が、規制強化と収益悪化により市場に放出されている。
中部圏では、名古屋市の中区・東区・千種区で在庫が増加傾向にある。
リニア中央新幹線開業への期待から価格が上昇した物件が、開業延期の影響を受けて売れ残り始めている。
「リニア期待」という名のアンカリングが、ここでも売り手の判断を曇らせている。
三大都市圏すべてで在庫が急増しているという事実は、これが一地域の特殊要因ではなく、日本全体のマンション市場に構造的な変化が起きていることを示す。
「損失回避バイアス」が売り手を「塩漬け」に追い込む
在庫が増え続けるもう一つの心理的要因がある。
「損失回避バイアス」だ。
人間は利益を得る喜びより、損失を被る痛みを2倍以上強く感じる。
行動経済学者のダニエル・カーネマンが実証したこの法則は、マンション売却の現場でも顕著に作用する。
「購入時より安く売りたくない」という心理が、売り手を縛り付ける。
たとえ市場価格が下落していても、「損を確定させたくない」という感情が値下げを阻む。
結果、物件は市場で売れ残り続ける。
現役営業マンの証言では、「半年間一件も内覧が入らなくても、値下げを拒否するお客様は少なくない」という。
彼らは「待てばまた上がる」と信じている。
しかし、その根拠はどこにあるのか。
日銀は金融正常化路線を明確にしている。
住宅ローン金利は今後も緩やかに上昇する可能性が高い。
待てば待つほど、買い手の購買力は低下する。
損失回避の結果、より大きな損失を被る。
これが「塩漬け」の構造だ。
「両手仲介」を狙う営業マンが「高値売り出し」を勧める理由
売り手が非現実的な価格で売り出し続ける背景には、営業マンの思惑も絡んでいる。
ある大手仲介会社の内部事情を解説しよう。
仲介会社にとって最も利益率が高いのは「両手仲介」だ。
売り手・買い手の双方から手数料を受け取れるため、単純計算で利益は2倍になる。
両手仲介を実現するためには、まず「専任媒介契約」を取得することが前提となる。
専任媒介を取るために、営業マンは売り手に高い査定価格を提示する。
「うちなら○○万円で売れます」という甘言で契約を勝ち取り、その後ゆっくりと値下げ交渉を始める。
これが業界で「高値受け」と呼ばれる手法だ。
売り手は「やっぱり高すぎたか」と納得し、値下げに応じる。
しかし、最初から適正価格で売り出していれば、もっと早く、もっと高く売れていた可能性がある。
高値売り出しの期間中に市場が冷え込めば、結局は当初の想定より安い価格で手放すことになる。
在庫急増の裏には、こうした仲介会社のビジネスモデルも影響している。
「市場均衡点の変化」を認識せよ──需要曲線と供給曲線のシフト
経済学の基本に立ち返ろう。
市場価格は需要と供給の均衡点で決まる。
2020年から2023年にかけて、マンション市場の需要曲線は右上方にシフトした。
超低金利、コロナ禍での住環境見直し、資産インフレ期待が需要を押し上げた。
2024年以降、需要曲線は左下方にシフトし始めている。
金利上昇、物価高による可処分所得の減少、将来不安が需要を抑制している。
一方、供給曲線も変化している。
相続物件の増加、投資用物件の売却、住み替え需要の顕在化により、供給は増加傾向にある。
需要減少と供給増加が同時に起きれば、均衡点は下方に移動する。
つまり、市場価格は下落方向に向かうということだ。
この「均衡点の変化」を認識していない売り手が、いまだに過去の高値を基準に価格設定を行っている。
市場は彼らを待ってはくれない。
「成約価格」と「売出価格」の乖離率が示す市場の実態
在庫急増の影響は、価格データにも明確に表れている。
東日本レインズの公表データによれば、2025年に入ってから「成約価格÷売出価格」の乖離率が拡大している。
つまり、売り出し価格から大幅に値引きしないと売れない物件が増えているということだ。
2024年前半まで、首都圏の乖離率は平均で5〜7%程度だった。
2025年に入り、これが8〜10%に拡大している物件が増加した。
特に郊外エリアでは12〜15%の乖離が珍しくない。
これは何を意味するか。
仮に5000万円で売り出した物件が、実際には4250万円でしか売れないということだ。
750万円の差額は、売り手の「思い込み」のコストである。
最初から適正価格で売り出していれば、この損失は避けられた可能性が高い。
売り手が今日から取るべき3つのアクション
市場の構造変化を認識した上で、売り手は何をすべきか。
具体的なアクションを3つ示す。
第一に、「成約事例」を自分で調べることだ。
営業マンが持ってくる査定書の事例は、彼らにとって都合の良いものが選ばれている可能性がある。
国土交通省の「土地総合情報システム」や、レインズ・マーケット・インフォメーションで、直近3ヶ月の成約事例を自分で確認せよ。
第二に、「在庫状況」を把握することだ。
SUUMOやHOME'Sで、同じマンション・同じエリアに何件の売り出しがあるかを確認する。
競合が多ければ、価格競争は避けられない。
その中で自分の物件がどのポジションにあるかを客観的に分析せよ。
第三に、「売却期限」を設定することだ。
「いい値段がつくまで待つ」という姿勢は、損失を拡大させるだけだ。
3ヶ月で売れなければ5%値下げ、6ヶ月で売れなければさらに5%値下げ、というルールを事前に決めておく。
感情に流されず、機械的に判断できる仕組みを作れ。
「鮮度」が命──長期掲載物件の末路
繰り返しになるが、マンションにも「鮮度」がある。
ポータルサイトに3ヶ月以上掲載されている物件は、買い手から敬遠される。
「何か問題があるのでは」「価格が高すぎるのでは」という疑念が生まれる。
現役営業マンの証言では、「長期掲載物件には、まず価格交渉から入る」という。
売り手が弱い立場にあることを、買い手は知っている。
だからこそ、最初の1〜2ヶ月で決着をつけることが重要なのだ。
適正価格で売り出し、内覧予約が入るうちに決断する。
「もう少し高く売れるかも」という欲が、最終的には最も大きな損失を招く。
編集部まとめ
2025年、マンション市場は明確に「買い手優位」へと転換した。
首都圏・近畿圏・中部圏のすべてで在庫が急増し、成約までの日数が長期化している。
この変化は一時的な調整ではない。
金利上昇、購買力低下、供給増加という構造的要因に基づいている。
売り手が取るべき行動は明確だ。
過去の高値という「アンカー」から解放され、現在の市場均衡点を正確に把握すること。
損失回避バイアスに流されず、適正価格で迅速に売り切ること。
営業マンの「高値受け」に騙されず、自分で成約事例を調べること。
在庫急増という市場シグナルを読み取り、適切に行動できる売り手だけが、この局面を乗り越えられる。
これを知っているかどうかで、数百万円の差がつく。
市場の変化を認識し、行動を変えることが、損をしないための第一歩だ。
執筆:マンション売却ジャーナル編集部




